恐れ



「ボクに不可能はないと言ったハズだ」
「だな。だからランスロットにしか頼めなかった」

 互いに帰ってきたばかりで、城内に入る間も惜しんで話し出す。
 円卓の騎士たちには復興のために国中を駆けずり回ってもらっている。
 中でもランスロットには、辛い仕事を当てている。信頼がなければ預けられないような任を。

「ソニック。ボクはキミに全てを掛けている。この国も、ボク自身も」
「I understand. オレもオマエで賭けをしてる」
「賭け、だと?」

 今回も無事に帰ってきた、と。
 王として命じれば騎士は絶対服従だ。そして王として命じるならば、ランスロットの身を案じるわけにはいかない。
 失うことが怖いのだ、とは言えず、血で汚れたガントレットを掴む。
 あんな想いはしたくないのだ。もう二度と。

「フン。元の世界とやらのボクは、随分とキミに気を揉ませているようだな」
「なんだよそれ。今、あっちは関係ないだろ」

 思いがけない一撃に、全身のトゲが逆立つ。
 シャドウとランスロットを同じように見ていた?
 違う。別人だ。シャドウとランスロットは違う。認識している。
 心から大切にしているのは、シャドウだけだ。
 なのにオレは何故、ランスロットの眼を見られない?

「キミがボクで賭けをしていた。勝ちつづければキミはボクのものだ。ボクの存在がキミをこの世界に縫いとめる」

 カシャンと金属のこすれる音がやけに大きく聞こえた。
 壁際に追い詰められて、恐怖を感じるのは何故だ?

「待て、ランスロッ…」
「もう遅い」

 深い口づけに思考が止まる。冷たい城壁に押し付けられ、鎧の重さに息が詰まる。
 腕も捕られてしまえば、見開いた眼からこぼれる水滴以外に抵抗を示すものは無い。

「やっとわかった。ボクの愛するもの」
「オレが愛してるのはオマエじゃない」
「知っている。理解している」

 ランスロットの舌先が涙の筋を辿って落ちてゆく。顎から首元、そして白い短毛に覆われた胸へ。

「ふぁっ、やめ…ランスロット…あぁっ」
「キミの身体はやめろなんて言ってない」

 すぐに硬くなってしまう粒を甘く噛まれた。嬌声を飲み込んでしまうと、今度は足に力が入らない。崩れ落ちそうになる。

「認めろ。ボクを認めろ」
「ラン…」
「身代わりではない。ソニック、キミはボクを愛している」

 紅玉色の瞳が水に濡れたように燃える。

「似ているから愛さないのか。似ていなければ愛したのか」
「…どちらも違う」
「では、何を恐れている?」

 優しく、触れるだけのキスを繰り返す。いつの間にか腕は解かれ、ランスロットの胸に抱かれるようになってることにも気付けなかった。

 問われて、ようやく理解する。
 恐れていたのは、
 恐れていたのは…。

 甘い口づけに毒は無く、ランスロットの想いを受け入れる形に変化してしまう。
 気付くことなく無理矢理に奪われた方がまだましだったのに。






おわり。






中途半端におわるのですが、
恐れているのは、ランスロットを愛してしまうことですね♪


2009.04.12


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