Candy Fake
カラカラと少しこもった音が耳障りだ。
僕が本気で走っているわけではないので、隣を走るソニックも宙返りを混ぜたり後ろ向きに走ってみたりでついてくる。散歩の延長みたいなものだけれど、あの音だけは耳障りでつい無視をしてしまう。
またひとつ、今度は赤い色を取りだして口に放り込んだ。
「Coooooool!!!! ほっぺたイテェ!」
ぎゅっと目をつぶって、塊のある右の頬を抑えてる。
強烈な炭酸が仕込んであるキャンディはシュワシュワと発泡音を漏らして、刺激を掻き混ぜるようにソニックの口の中を移動する。
カラカラ、コロコロ。
「シャドウ、お前も食わねぇ?」
いらない。不要だ。そんなジャンクフードは好まない。一瞥する視線に混ぜる感情。
飴玉はしばらく無言のふたりの間を転がり続ける。
しばらく経つとソニックはまたひとつ摘まんで袋から取り出す。
「Lucky! Black-Candy! シャドウと同じ色のコーラ味だぜっ♪」
走りながら放り投げ口の中に納めてしまう、バカバカしいほどの器用さ。
カラン、と響く音に、苛立ちが低い沸点を越えた。
「何がラッキーなものか」
隣を走るソニックの足をひょいと引っかけた。思いもよらない行動だったのか、「のわあ」と声を上げてすっ転ぶ。それでもなんとか数回の前転で身体を起こして止まった。
「シャドウなにすっ、かはっ、」
拳を振り上げて怒るソニックが、急に体を折り喉元を押さえて強く咳きこむ。例のコーラの匂いを振りまいて苦しげに。
少し溜飲が下る。
力をゆるめた手刀を首の後ろに叩き込んでやると、黒い塊が多量の唾液と一緒にソニックの口からこぼれ落ちた。
「コホッ、クフッ、マジでっ、どういうツモリだ!?」
「そんなフェイクに」
うつつを抜かすキミが悪い。
強引に顔を向けさせて奪うキスは不味いコーラの味。
足元で黒いキャンディの砕ける音が心地よく響いた。
おわり。
口寂しいのはシャドウかソニックか、というところ。
2009.03.28
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