Amy's Adventure



a day in the girl's life






 朝、起きた時からなんだかおかしいと思ってた。
 とってもイイ天気で、ほんの少しだけ風が吹いてて、春の初めの穏やかな一日の始まり。
 なのに、なんだか変な気がしてた。
 テレビをつけてみるけれど、見たかった番組も退屈で溜息が出ちゃう。
 どうして、おかしいなんて思うんだろう。

「ソニック、どこに行っちゃったのかなあ」

 気分を変えたくて、街でウィンドウショッピング。
 たくさんの人がいるのに、静かな街。
 お気に入りのカフェでワッフルとアイスを注文する。お店のお姉さんはいつもどおりの笑顔。
 どうして、おかしいなんて思うんだろう。

 カフェの壁かけ時計を見ると、12時を過ぎていた。全然気付かなかった。
 時計塔の鐘の音は聞こえたかしら。
 聞こえなかった気がするわ。
 それだけじゃない。
 今日になってから、音楽が、聞こえないんだわ。

 どうしよう、私、耳が聞こえなくなったのかしら。
 恐る恐る、時計塔前の広場へやってきた。
 もうすぐ1時。鐘が鳴る。
 聞こえない。でも、広場で遊んでいる子供たちの声は聞こえるわ。
 鐘は、動いている。なのに、音が、鐘の音が、全然聞こえない。

「ソニック、ねえ、今、どこにいるの?」

 胸が締め付けられる。
 心細くてたまらない。
 その時だった。
 歌声が聞こえた。
 遠く、細く、風に運ばれてくる、細切れの歌。
 知ってるわ。誰よりも、その声のひとを。

「待っててソニック、私もそこに行くわ!」

 感覚が命じるままの方角へ、ただそれだけを信じて、私は足を動かしてゆく。

 少し進んでは消えてなくなる手がかり。ひとつひとつ集めて、たどり着いたのは、シティホールだった。
 正面の大扉の前には、ミュージカルのポスターが貼ってあって、「中止」と書きこもうとしている警備員に12歳くらいの女の子が食ってかかってる。
 裏口から中に潜りこむと、オーケストラの楽団員がガックリと肩を落としてミーティングしている。
 楽器が壊れたワケでもないのに、どんなに弦を弾いても、笛に息を吹きいれても、音がならない。
 これは、絶望的だわ。

 人目を盗んで、ホールのロビーへやってきた。
 そう、確かここには。

「あったわ。カオスエメラルド」

 キラキラと光のしずくをまとう大きな宝石。強化ガラスのケースの中にあるのに、なぜか風を感じる。
 手を伸ばすと、ほら、また。

「ここから聞こえてるのね。間違いないわ、ソニックがどこかで歌ってる」

 どうにかして、手に入れなくちゃ。
 音楽の消えた世界で、たったひとつの歌だもの。
 でもどうやって?宝石泥棒はルージュの専門だから、スマートに頂戴するって私にはムリよね。
 迷ってても仕方がないわ。だってソニックがいつも言ってるじゃない。

「やってみなくちゃわからないわ!ごめんなさい!」

 キミ、何を!なーんて警備員の声が聞こえるけど、もう知らない!
 手にしたハンマーでガラスケースをたたき割る。
 赤色灯がグルグルまわって、スポットライトが私に当たる。でもやっぱり警報はならない。
 ぐずぐずしてられないわ。

 ライトに当たって真白に輝いたカオスエメラルドを両手で捕まえた。
 そうしたら何が起こったと思う?
 世界が裏返ったの!
 大きな袋をぐるんと表裏にひっくり返したみたいに、世界がぐるんと変わったの。

「な、なに、ここどこ?」

 夕暮れの森の中。
 まだ春が浅くて、日蔭に汚れた雪が残ってる。
 私は、カオスエメラルドを抱きしめたまま、ぽつんと立ちつくした。




chase in labyrinth






 低く重く、地鳴りがする。空は赤く暗く、厭な色。
 でも、足もとが見えるだけマシだわ。
 カオスエメラルドは沈黙してしまった。どこへ行けばいいのかしら。
 じっとしていても何も変わらないかも。
 あてもなく歩き出す。
 時々立ち止まって、カオスエメラルドに耳をあててみたりして。

 進んでも進んでも、どこまで行っても森の中。完全に迷ってるわ。
 最初の場所にじっとしてればよかったかしら。
 赤い空はいつの間にか、暗い暗い紫色に変わり、赤い色の月が浮かんでる。
 ホントにここにソニックはいるのかしら。

 不安になっちゃダメ。大丈夫、絶対大丈夫。
 でもやっぱり不安。淋しくて、涙が出そうになる。

 バチバチと音がして、フラッシュのようなまぶしい白が森に満ちる。
 はっと上を見ると、木の上に、ライオンみたいな獣が雷をまとってこちらを見てる。2匹?3匹?
 足がすくむ。こわい。ハンマーを握る手が震える。
 バシン!すぐ隣の梢に雷が落ちた。
 姿勢を低くして、一目散に森を逃げる。闇雲に逃げる。何度も木の根に足をひっかけて転んで、とうとう囲まれてしまった。

 助けて、ソニック!
 声が出ない。

 ドン、ドン、ドン!

 突然、私の周りにいた獣が何かに打たれて、姿を消した。
 高く空を舞って、赤い月を背に降りてきたのは、青い姿の。

「ソニック!?」
「エミー、待たせたな」

 まぶしい笑顔で私の前に立つ。ホッとして力が抜けそうになって。
 なのに、また、胸に抱いていたカオスエメラルドから歌が微かに聞こえてきた。

「大変だっただろ?ああ、傷だらけじゃないか。これからずっと守ってやるからさ」
「大変だった、じゃないわよ。ねえ、教えて!街から音楽が無くなったのはどうして?」
「悪夢の王が奪ったからさ。でもエミー、君のおかげで倒せそうだ。そのカオスエメラルドをオレに渡してくれ」

 ソニックが自信をみなぎらせて拳を握る。
 カオスエメラルドが光を曇らせてゆく。ノイズが酷くてよく聞き取れないけど、短調で早いリズムは何かの警告。
 私の鼓動も、緊張でどんどん速くなる。

「教えて。どうして、このカオスエメラルドからあなたの歌が聞こえるの?」
「歌?何のことだ?」

 聞こえていないの?私をこの森に導いたのは、あなたじゃないの?
 ソニックの眼の色がわずかに揺らいだ。
 口元には笑みを湛えながら、なのに緑の瞳には黒い染みが広がる。

「歌ってるソニックが本物で、あなたが偽物だから?」
「偽物って何だよ? オレはエミーを助けただろ。これからもずっと君を守る」
「教えてあげる。私はソニックが大好きなの。あなたはそっくりだけど違うわ」

 やれやれ、と両手を上げておどけて笑う。そうね、ソニックはそんな仕草もするわ。
 でも、決定的に違う。

「だって、私、あなたに抱きつきたいって思わないもの!」

 ソニックから黒い闇が噴き出した。全身が総毛立つ。
 目に見えるものすべてが真っ黒に塗りつぶされた。後ろに下がろうとして、谷底に落ちる感覚。落ち、た?
 上も下も右も左も、わからない。落ちたのに、どこまでも落ちていく。なのに風を感じない。
 こわい。つぶれてしまいそう。涙がこぼれる。
 真っ黒な心の中に、小さな青が生まれた。
 それは、私の、勇気の色。
 カオスエメラルドを握りしめる。

「こんなことで、負けちゃうエミー・ローズ様じゃないわよ!」

 精一杯の声で叫ぶ。

 暗闇の中で、青い星が私に向って飛んできた。
 流れ星がまっすぐ私に落ちてきたみたいに、闇を切り裂いて!


 ふわり、体が浮かんで、落ちていく。
 元のままの森の姿が見える。
 助かった?って思えない。落ちてるってことは、地面はどこ!?
 目の前に青が広がった。トン、と身体が柔らかいものにぶつかる。

「Hey, Amy! このまま走らせてもらう!」

 暗い森の景色が無数の線になって流れてゆく。
 私を抱いて、ソニックが走ってる。
 さっきの闇はもうどこにも見えない。私が大好きな、青い色しか見えない。

「歌が、聞こえたわ!ソニックの歌よ!」

 ソニックは私を見ない。まっすぐ前を向いて走ってる。でも、私を抱く腕が少し強くなった。

「そのカオスエメラルド、エミーの声も届けてくれたぜ」

 ソニックが私を見ない理由がわかった。
 だから、私はソニックにぎゅっとしがみついた。

「絶対離れないんだから!」




save this world






 私が持ってきたカオスエメラルドと、ソニックが持ってたカオスエメラルド。
 ふたつの力は森に棲みついた音楽を食べる悪魔をやっつけた!

「簡単に言うとそうなんだけど、結構大変だったのよ」

 電話の相手はテイルス。
 へぇ〜そんなことがあったの。知らなかったなぁ。だって!
 そりゃ知らないわよ。
 だって。

 夢かもしれないもの。

 ほとんど一方的に私がしゃべって、疲れちゃって、電話を切った。
 夢なんて思わなかったもの。

 あんなにたくさん走って、心細い目にあって、最後はハンマー振り回して戦ったのに。

 でも、気づいたらベッドの中だった。
 傷だらけだった手足は、何もなかったみたいに、いつもどおりさらさらすべすべ。
 カオスエメラルドも私の手にはなかった。

「せっかく一緒に冒険したのに」

 ソニックは悪魔に見つかるかもしれないという危険を冒してまで、歌い続けていたんだって。
 自由と音楽は同じだから、誰にも奪わせたりしないって。
 あの森にいたのは、気まぐれな友人を助けるためだって言ってたけど、そのお友達には会えたのかなあ。
 なんてね。
 夢の中の話をいつまでも考えてるなんて、ね。私らしくないかしら。

 テレビからは賑やかなに同じフレーズを繰り返すコマーシャルや、番組を過剰に盛り上げるBGMがあふれてくる。
 家の外に出れば、ミドルスクールの子供たちが流行り歌を歌ってる。
 いつものカフェでは、会話を邪魔しない程度のラテンミュージックが聞こえる。
 時計塔は、どうなったのかしら。

 時計塔前の広場へ来ると、集まった子供たちと牧師さまが心配そうに上を見てる。
 ついさっき、てっぺんの鐘つき堂に傷ついた鳥が入っちゃったらしくて、その子を助けてあげないと時を告げる鐘を鳴らせないという。
 もうすぐ正午。

「じゃあ、助けに行かなくちゃ!」

 時計塔に飛び込んで階段を駆け上がる。後ろで牧師さまの声が聞こえたけど、気にしてられない。
 ステンドグラスの鮮やかな色を横目に上へ、上へ駆けて、一番上の踊り場まで来るとさすがに息が上がって心臓がバクハツしちゃいそうだったけど、頭の中は鳥のことでいっぱいだったから、そこに青い色があってもいつもの半分くらいしか驚かなかった。

「ど、どうしてソニックがいるのー?」
「Hey Amy! いいとこに来た!ちょっと手伝ってくれよ」
「え、手伝うって…?」

 ソニックが胸に収めていたのは元気のない渡り鳥。足に釣り糸を幾重にも巻きつけてる。

「捕まえたまでは良かったんだけど、オレひとりじゃこれを取ってやれなくて」
「わかったわ。じっと、おとなしくしててね」

 怪我の場所に触れないように、そっとそっと糸を緩めてほどいていく。鳥がおとなしいのはわかるけど、ソニックまで固まったみたいにじっとしてるのがなんだか可笑しい。

「はーい、とれたわ。足は…ちょっと血が出てるけど大丈夫みたいよ」

 ソニックがそっと鳥を放すと、1、2歩よろめきながら歩いて、それからは今までの元気のなさが信じられないほどの強さで空へ飛び立っていった。
 その軌跡を追って、塔の下の方を見ると、牧師さまが笑顔で手を振ってるのが見えた。

 満足げに鐘つき堂に吹き込む風を浴びているソニックに、少し不安に思いながら、尋ねてみる。

「私、森の中でソニックに会ったでしょう?」

 ソニックが私をじっと見る。探るみたいに。やっぱり夢だったのかな。
 ふっと息をついて、ぴしっと指を立てる。

「エミーが約束しておいて、忘れてるんなら別にいーけどさ」

 約束、したわ。
 夢の中で、みんなの音楽を取り戻したら、一緒に…。

 ガランガランゴワンゴワン!!!
 突然鳴り始めた正午の鐘の音に、私もソニックも思わず耳を押えた。2人で耳を押えてるポーズがおかしくて、全然聞こえないけど2人で大笑いした。
 カラーン、カラーン、最後に二つの鐘がきれいな和音を作り、街中に広がってゆく。

「憶えてるわ。忘れるわけがないじゃない!」

 嬉しくなって、私はソニックに抱きついた。

 シティホールでミュージカルを観るの!
 私たちが取り戻した音楽よ。
 ソニックと一緒なら、きっともっと素敵になるわ。






おわり。






いくつかの要素が入っちゃってるんですが、気づく人いるかな?
ナイツだけじゃないよ。笑

SWA-HD版はソニエミ天国らしいですが、wiiしかプレイできなくて、お話にリンクできなくて悔しいトコロ。じつにざんねんだyo★

2009.03.05


--- ブラウザ・BACKでお戻りください。 ---