ゆりかご



その赤ん坊は、美しかった。
肌は透き通るように白く、頬はバラ色に染まり、何も知らぬはずなのに口元は笑みの形を作る。
時折開かれる青い瞳は、これもまだ大人ほどの視力は無くほとんど見えてはいないのに、映る世界をこの上なく優しい色に変えた。

けれど、その子は母に抱かれることはない。
誰も、その子に触れることはできないのだ。
透明な保育器の中は完全な滅菌状態に保たれ、口に含むものも母乳ではなく科学的に計算され尽くした栄養素のみ。

先天性免疫不全症候群

それが彼女につけられた病名。
皆が彼女の誕生を待ちわびていたというのに、彼女はこの世界では生きられないという。

こんなに美しい子供が。

世界が彼女を排したのか、あるいは彼女が世界を拒んだのだろうか。



お前を決して死なせはしないよ。
お前は私の希望なのだよ。
さあ、小さな保育器を出て、私のつくったゆりかごへ行こう。
この世界よりはずっと小さくて申し訳ないが、この世界の端々まで見渡すことのできる場所だよ。

パパとママを一緒に連れていけなくて、すまない。
そうだ、友達をあげよう。
ロボットなんかじゃない。
お前と同じ、この世界では生きていけないものだよ。
ただ、お前が一緒だったら、彼もやさしい心を憶えてくれる。

そう、
お前は私の希望なのだよ。






おわり。






ありがちな話で。


2009.01.15


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