黒甲冑の騎士



「何故、お前がその剣を持っている」

 黒い甲冑を身にまとった騎士が射殺すような視線でソニックを見下ろす。
 どうみたってシャドウなのだが、相手はナックルズそっくりのガウェイン同様、こちらのことをきれいさっぱり知らないのだろう。
 また最初から説明か、と少々うんざりもする。

「湖から生えてきたのさ。コイツはオレじゃないと使えないってね」
「湖の貴婦人が?ならば君が、…この呪われた国を解放する者だというのか」

 黒騎士の腕がすっと上がる。白く輝く剣はアロンダイト、と鍛冶屋のテイルスが言っていた。
 アーサー王のエクスカリバーに並ぶ名剣を持つ、ログレス王国最高の騎士ランスロット。さて、その技量は?
 前に立ってるだけで痺れるような殺気が伝わる。

「アーサー王は邪悪に呑まれた。マリーナって魔術師が言ってたぜ」
「だからお前が新たな王だと? ふざけるな! この僕が仕える王はただ一人、あの方だけだ」

 ソニックの腕が勝手に上がる。構えた剣の意思が耳の奥で低く響く。

---決闘ですよ、ソニック---

 わーかってるよ、全くどいつもこいつも…。
 どの世界、どの時空にいたって、変わらないヤツらだ。
 本気のシャドウに勝とうと思ったら、こっちも必死じゃないとな。
 自然と、口元に笑みが浮かんだ。

 互いに剣を構えて向かい合い、呼吸も、鼓動までもシンクロする瞬間。
 二人は同時に地を蹴った。








 浮上する意識が藁の匂いを捕えて、草いきれの緑色の中を走ったことを思い出す。
 現実だったか、それとも夢だったのか。
 うっすら目を開く。想像通りの暗い部屋、窓の外で松明のはぜる音がする。
 剣なんて使い慣れない物のせいで疲労は極限だ。質素な麦藁のベッドに体が重く沈んでいる。

「ナックルズが止めに入らなくても、オレが勝って終わりだったのに」

 思わず口に出して呟いてしまうのは、悔しかったからだろうか。



 闘い始めには高みにあった太陽が茜に染まり地に落ちようとする頃、ガウェインと名乗った騎士が決闘を止めに入ったのだ。
 どちらも殺してはならない。
 ランスロット卿はこのような騎士見習に死を与えるほど何をお怒りか。
 赤い背中がそう言ったことまでは憶えている。



「やっと目覚めたか」

 気配が近づく。よく知っている、アイツと同じなのに、同じじゃない。

「Sir Lancelot...今ならオレを殺せそうだが、やってみるかい?」
「君は騎士道というものを理解していないのか」
「…そーだったな。オレも卑怯はキライだ」

 紅い瞳が見える。今は静かに凪いでいる。起き上がるのもままならないので、気配に向かって手を伸ばすと、そこに思った通りの手があった。
 アイツと同じなのに、同じじゃない、手。

「君は、アーサーではないのか」
「…ソニック、だ」
「そうか」

 感情の起伏に乏しい声。けれど、合わせた手の力ではっきり落胆を感じる。
 同じ思いなのか。ランスロットはこんなにもアーサーを求めているのに、ここにいるオレはソニック・ザ・ヘッジホッグで。

「済まなかった。君はアーサーではない…」

 ランスロットの手が離れようとするのを、オレは許さなかった。指先を捕まえて握り込むと、手の甲に柔らかなものが触れる。許しを請うように。
 それだけで解かる。この思いは、忠義なんてモンじゃない。

「なぁ、アーサー王はお前を手放さなかったんだろ?どんなに裏切られても、最期まで」
「…そうだ。何度も裏切ってしまった。なのに、アーサーは」

 解かるよ…、解かるって。
 今度はオレが手の中の指を引いて、ランスロットの手のひらに唇を押しあてた。
 どんなに状況が悪くても、憎しみ合っても、必ずこの手を求めてしまう。

「傍にいてくれないと、困るんだ」

 アーサー王もランスロットにそう言ったんだろうか。
 オレはアイツにそう言ったことがあっただろうか。

 答えの代りに、ランスロットはオレを強く強く抱いてくれた。








おしまい。








書いた時には、詳細情報がちょっぴりしか出てません。

まだゲームが発売されてないからできる暴挙。笑
円卓の騎士ファンの人には大変申し訳ない。だが私は謝らない。(ヒドイ

2009.01.27


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