Squall



「う、わあっ!!」

 がくん、とトルネード号が垂直落下する。ほんの2,3秒の無重力。チップが必死になってソニックにしがみつくが、ソニックは相変わらず翼の上で風を受けるように立っている。得意げに笑って見つめる先には次の目的地・アダバタがある。

「ソニック、スコールが来てるみたいだよ」
「ああ。高い積乱雲だな。でも平気だろ?テイルス」
「もちろん。まかせてよ」

 くいっと親指を立てて、テイルスは操縦桿を握りなおす。チップはこわごわソニックから離れて翼にしがみつき、眼下に広がる海を見る。鮮やかな翡翠色の海が、まだらな灰色に変わってゆく。

「せきらんうん、って?」
「すごい雨を降らせる雲さ。そんなに長い時間じゃないけどな」

 ふうん、とチップはよくわかってない返事。
 トルネード号はぐんぐん海岸線のジャングルに近づいてゆく。空はさらに暗くなり激しい突風が何度も彼らに吹き付けたが、チップが悲鳴を上げるような揺れは二度と感じなかった。
 緑の島を旋回して、小さな岩棚をみつけるとトルネード号は軽く爆音を響かせてその下にもぐりこむ。プロペラの減速と車輪のブレーキで上手く狭い空間に着地した。

「Very Nice Landing!」
「えへへっ サンキュー、ソニック!」

 ハイタッチを交わして、急いで機体にシートを被せる。猛烈な湿り気は二人を間に合ってよかったという気分にさせる。高い熱を持ったエンジン部分に注意深くロープをかけようとして、テイルスは可笑しそうに指をさす。その先には、パタパタと落ち始めた雨粒に、はしゃいで濡れているチップがいた。
 やれやれ、と予備のシートを抱えてソニックは岩棚の外へ出る。

「hey, 気持ちいいかい?チップ」
「ソニックー! 命の次に大事な水だよー!」
「それ、シャマールのぷりてぃしまいが言ってたよな」

 オアシスの街で会った元気な姉妹。砂漠では食べ物よりも大事なのよ、と、ふにゃふにゃに溶けたチョコレートの代わりに小さなコップの一杯をくれたのだ。
 その水は温んでいたけれど、チップの心の深い場所へしみ込んだのだろう。

「まあ、このアダバタじゃこんな雨は毎日降ってるんだけど」
「えー! 毎日!?」

 驚くチップに雨はさらに強く落ちる。負けないように小さな羽根をはばたかせて、ソニックのまわりをくるくるまわる。

「不思議!不思議!この星って、不思議!一年で一回も雨が降らない場所があって、毎日雨が降る場所があって、どうしてこんなに違うのかな?」
「それは…多分、みんな同じだとつまらないからだろ」
「そっか。世界中で毎日こんな雨が降ってたら、きっとエミーが怒るよね。洗濯物が乾かない!って」

 考えるよりも容易に、プンッ!と怒ってるエミーが想像できて、ソニックとチップは顔を見合せて大笑いした。
 その瞬間、大砲の弾が落ちたような衝撃と、真っ白な閃光が二人を包む。またまたチップは悲鳴をあげてソニックの胸に飛び込み、ひしとしがみついた。

「雷だろう?前にも見たじゃないか、スパゴニアの近くの幽霊屋敷で」
「あそこのかみなりはこんなにこわくなかったー!!」
「怖かったのはオバケだったもんなー」

 からかってもチップの涙目は変わらない。苦笑しながら、ソニックは持っていたシートを広げて頭の上から被った。
 そのまま岩棚の方ではなく、風除けになりそうなジャングルへ向けて足を進める。
 雨は、天の底が抜けたような土砂降り。

「ねえソニック、どうしてトルネード号に戻らないの?」

 ソニックの体でできた小さなテントに隠れてチップが尋ねる。
 守られているという安心感からか、チップの羽根と胸元の玉が穏やかに輝いている。

「まあ見てなって。もうすぐ雨が上がるからさ」

 小首を傾げるチップに、ソニックは笑って返す。

 雨が上がった一瞬だけ空に訪れるものを見れば、チップはこの星が、世界が、もっと好きになるに違いない。
 そんな確信にソニックも胸を躍らせながら、驟雨が叩き続けるシートを強く掴んだ。







おしまい。







◇BLUE-BLACK◆のpopocoさんの絵「スコール」にめちゃくちゃ惚れてしまい、
書かせてくださあいっ!とお願いしたら快く了解していただけました。
しかも「挿絵OK♪」と仰ってくださり、厚かましく強奪!!!
元絵の素晴らしさはぜんぜん伝わってません。ごめんなさい…orz

「スコール」は熱帯地域で大雨を伴うことのある強風だそうで。勉強になった。笑

2009.02.02


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