「ソーマ…」

声をかけたときには血の気が引いていた。
なに、その傷…?




木漏れ日





輝きの森への道を急ぎ辿りながらも、ぼくたちは時々休息していた。
そのたびにソーマはギラファと「あたりを見回りに」行ってくれた。
ぼくも一緒に行こうとしたら、
「チビキングがいるだろ?」
と柔らかく止められる。
戻ってくるときには、チビのために傷薬も作ってくれた。
おかげでチビキングの傷もずいぶん癒えて、セランを追って飛べるほどになって。

ビビが休憩しよう、と足を止めた。
ソーマがまたひとりで森の道をはずれようとする。
「見回りに行くの?」
一緒について行こうとすると、ソーマは苦笑して、
「トイレ。・・・覗くなよ?」
なんて言う。
ビビたちが笑って、パムも笑って、チビも笑った。でも、ぼくはなんとなく笑えなかった。
みんなで樹液を飲んで、花粉ダンゴを食べて、それでもソーマが戻ってこない。
気になってソワソワ落ち着かないから、えいっと追いかけることにした。
バビが、どこ行くの?って聞くから。
「覗き!」
って答えておいた。

斜めの木漏れ日が落ちる森、ちくちくする杉の葉を避けて歩いてると、黄緑色に輝く苔の丘が見えた。
ギラファの黒い羽も見えた。きっとあそこに水が湧いてる。
ソーマは珍しくコートも上着も脱いでるみたいだった。
そおっと、本当に覗くみたいに近づくと、ソーマは泉の中に深く右腕を突っ込んでるみたいだった。
水、飲んでるのかな?
もうちょっと、と頭を出すと、ギラファがぼくに気付いてぐっと大アゴをこっちに向けた。
弾かれたように身を起こしたソーマの右肩から肘あたりまで、大きな傷痕、そして赤く腫れていた。

「ポポ…か」
ソーマはがっくりと、また右腕を泉に浸すように身を倒した。
「おまえには知られたくなかったのに」
「…どうして、そんな傷」
「デュークに従えなかったから。さすがオレの父親だな…容赦がなくて」
口調は軽いけど、目は全然笑ってない。悔しさでいっぱいのソーマ。
「どうして、教えてくれなかったの?」
ソーマは堅く口を閉ざしてしまう。
言ってくれない気だ。
悔しい。悔しくて、泣いてしまいそうだ。
視界の端に、チョークの短刀が入った。それを掴んで右腕に当てる。
「教えてくれないんだったら、ぼくも同じところに怪我する!」
「ばか!やめろ!」
木漏れ日がソーマの影で隠れた。
短刀は飛ばされて、ぼくはソーマに押し倒される。
「こんな怪我、どうってことない。今だって、おまえよりも」
続きかける言葉をさえぎって、足を引っ掛けながら思いっきり身を起こすと、ぼくらの位置は簡単にひっくり返った。
「うそつき」
何故言ってくれなかったんだろう。
ソーマの素肌に触れると、熱を持っていた。
「あついよ?」
「だから冷やしてたんだろ?」
「ソーマのばか」
「おまえの手、冷たくて気持ちいいな」
涙が止まらない。
胸が痛くて。
「…言えないだろ?ポポがそんなに泣くのに」

傷薬を塗って、包帯をするのを手伝った。
痛み止めの薬はぼくが噛んで、ソーマに渡した。
「ソーマが怪我してること、みんなには内緒なんだよね?」
「…あのな。気付いてなかったのはおまえだけ」
…今、なんて?

「ギラファ、行くぞ」
ちょ、ちょっと、ソーマ?
「…置いていかないでよ!」


振り返ったソーマは光の中で極上の笑みをくれた。




おしまひ。


どちらが先手を打つかしのぎを削ってみるワケですが、
ソーマさまは甘いので(笑)ポポにヤッツケられてるくらいが丁度いいです。

2006.04.17


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