小さき恋人



 オレはギラファノコギリクワガタ。
 名前なんて無い、ただのギラファだ。(という書き出しは2回目だ)
 無理矢理洗脳されて、ソーマと出会って、なんとなく離れ難くなって、オレひょっとしたらソーマがスキかもなんて、ガラでもなく悩んでいた。
 そしたら、久しぶりにアイツから呼び出しされたんだよ。アイツ。
 アダーってオヤジ野郎。

「ふん、額が割れておるわ。もう一度洗脳しなおしてポポたちを引っ掻き回そうと思ったのに、この役立たずギラファめ」

ぎゃぎゃぎゃぎゃーぎぎぎっ!!!(セコいんだよオヤジ!オレ早くソーマのところに帰りたいのに!)

「む?たかだかムシの分際で、ソーマとかいう小僧が気になるか?しかし、ヤツはポポのものだぞ?」

ぎゅるるるるっがごー!(う、うるさいなっ!オレだってムシじゃなかったらあんなヤツにっ!)

「・・・くははははっ!ならばおまえの望み、かなえてやろう。存分にヤツらを引っ掻き回すがよい」

ぎ?ごっごごっ!?げごーぉぉぉっ!!!(え?何だって?う、うわああぁぁぁっ!!!)


 ・・・気が付いたら、オレはひとりで森の中にいた。
 あれ?足が、足りない?
 てか軽い?
 オレサマの翅?の、代わりに、ナニコレ?黒マントー!?

 オレ、今、ちっちゃい森の民・・・。

 ・・・憶えておくがよい。おまえがソーマの心を捉えたならば、真に自由の身を与えよう。
   だが、そうでなかった場合・・・


 なんだっけ?

「おまえ、こんなところで何をしている?・・・森の民の、子供か?」
「ソ、ソーマ!?」

げごーぉぉぉっ!!!

 衝撃の出会い。







「子供がこんなところにいるのも珍しいが、ソーマに懐くってのも珍しい」
「ホントにねー。ポポとひと悶着ありそうだけど」
「どこからきたんだろー」

 変な大人3人組が(間違いなく面白がって)見守る中、オレは心細がる子供の振りをしてソーマのコートの端を握った。
 ソーマはちょっと困った顔をした。きっとこういう場面に慣れてないからだと思う。
 代わりにポポがニコニコ笑ってオレの面倒を見ようとする。コイツいいヤツかもいやいやいやいやソーマは渡さないったら!!

「ねえ、キミ。どこからきたの?」
「あっち(東)」
「・・・あっちは輝きの森の方角で、村は無いはずだ」
「じゃあ、あっち(南)」
「困ったなぁ。これじゃどこにこの子を連れてったらいいのかわかんないよ」
「一緒に行く」

 一同、はぁ〜っと大きなため息。
 輝きの森までは、子供は連れて行けないってんだろ。
 こんな風に邪険にされるんならムシの姿のままでよかったのに、あのアダーオヤジめ!
 オレ、絶対ソーマについて行く。
 ぷよーんと間抜けた羽音がして、ちっちゃいカブトムシがポポの頭に着地。

「オマエさぁ、どこかで会ったことあるよな?」
「・・・ない」
「名前おしえろよ?知ってるヤツっぽいし」
「・・・ギラファ」

 ぷ。あはははははは!
 チビカブトムシとポポが盛大に笑いやがった!

「何で笑うんだよ!」
「だって!こんなに可愛い男の子がギラファなんてゴツ恐い名前、似合わないよ〜!」
「オレには、この名前しかない!」

 今、オレがでっかいギラファだったら絶対踏み潰してやる!!
 こいつらキライ。キライだ!
 泣きそうなのをぐっと堪えてると、さわさわと頭を撫でられた。

「うん、わかった。ギラファだな。俺の大事なヤツと同じ名前だから憶えやすい」

 ソ、ソーマぁぁっ!
 やっぱりオマエが大好きだっ!
 ちっちゃい体を利用して、ぎゅーっとソーマに抱きついてみると、オレが思ってたよりずっと華奢な感覚でびっくりした。
 あーしあわせー。
 オレをちっちゃい森の民にしてくれてありがとよーアダー!

 ・・・だが、そうでなかった場合・・・

「ねえ、ホントにその子どうするのー?」
「しばらく一緒に行くしかないだろう。森の民の村へ送ってってやるからな」
「それまでずっとソーマにベッタリするつもりだろコイツ」
「構うな。俺が守ってやるから」

 ポポの不機嫌そうな声。ふふん。今はソーマはオレのモンだ!
 それにソーマに守られたりしないから。大丈夫、オレもソーマ守ってやるからっ!

 ぶぶぶぶぶぶぶぶー
 羽音がする。あの音は・・・

「ごげげっ!オウゴンオニクワガター!?」







 舞い降りてきたキンキラキンに、ソーマたちが一斉に身構える。

ぎゃああおおおー!(まいどー!ちっちゃいギラファを見物に来たったでー!)

 毎度って、昔っからイヤなヤツ!!がめつい商人ぽくて!
 おふざけでソーマたちを傷つけられたくないから、思わずオウゴンオニの前に飛び出した。

-----------以下、ムシ語省略-----------

「結構可愛らしい森の民やな。ギラファのこっちゃからもっとトゲトゲついてるんかと思たわ」
「何しに来た!?まさか本当に見物ってわけじゃないだろ?」
「わっはっは!森の守護者御一行様をケチョケチョじゃー!ギラファもついでにやっつけるんじゃー!」
「オレがソーマたちを守るって決めたんだ!手出しはさせないぞ!」
「そんなちっちゃいカラダで何言うとる!いねー!」

-----------ムシ語省略終わり-----------

 オウゴンオニが思いっきり体を倒すと風圧で飛ばされた。
 恰好悪くコロコロ転がったところにポポが助けの手をくれた。ソーマが素早く矢を飛ばす。

「無茶しないで!逃げるよ!」
「イヤだー!アイツはオレがやっつけるんだ!」

 ぱちん。
 顔(ほっぺたという場所)を叩かれた。ソーマに。

「こんなところで光になるな!」

 かなり、ショックで呆然。
 ソーマに引っ張られるように草むらを走った。
 オウゴンオニはしつこく追いかけてきて、ポポと大人3人は分れて攻撃してる。
 ちっちゃいオレは、何にもできない。

「ごめん。ごめん、ソーマ。オレ、おまえたち守れない」
「お前は、何か目的があってここに来たんだろ?」

 ふと、ソーマの目が優しくなる。
 指がオレの額にかかる髪の毛を払った。

「この傷は俺がつけた。そうだろ、ギラファ」







 アダーの言葉が閃光のようにひらめいた。

・・・おまえがソーマの心を捉えたならば、真に自由の身を与えよう。
  だが、そうでなかった場合、おまえは光になる・・・




「うわああっ!助けて、ムシキング!!」
「ポポ!!」

 ソーマがポポのところへ走っていく。オウゴンオニの大アゴに短剣を投げつけながら。
 あんなに小さい森の民なのに、ふたりは何度やっつけられても立ち上がる。
 あのふたりの間に、オレ、入れないよ。
 オレ、光になっちゃうのかな。

ごごおおおおおーん!(ポポー!助けにきたぞー!)
がぎいいいっ!(来たなぁ!オジャマカブトムシめー!)
「ムシキングっ!がんばれー!」

 ・・・ポポにはカブトムシがいるだろ?
 戦ってる間だけ、ポポとカブトムシは一緒なんだよな。
 オレ、やっぱりソーマを守りたい。
 ちっちゃくなった体から光が漏れる。がんばってるときに出るヤツみたいなのが。

 どうせ光になっちゃうんなら、ソーマを守ってからだ!
 最後にひとことだけ、伝えられたらそれでいいや。

「ソーマ!戦ってるときだけでいいよ!オレと一緒だからね!」

 叫んで、振り返ったソーマの目が驚いて、次に勝気に輝いた。
 戦いの中のソーマの笑みがオレは大好きだ。

 内翅が青白く輝いて、オウゴンオニのフトコロに突っ込むと、大アゴをギリギリ締め上げる。
 間髪いれず、カブトムシのツノ突きが入った。

「ギラファ!・・・いけぇ!」
ごっぎゃああああっ!!(キメるぜっ!ブルロォック!!!)

ぎゃああおおおおん〜〜(わ〜〜ま〜た来週〜〜〜)




 オウゴンオニが飛んでいって、カブトムシがいつの間にかいなくなって、わざとらしく帰って来たちっちゃいカブトムシが「そういえば、あの子供は?」なんて聞いてる。
 ちっちゃい姿のオレを探し回ってるポポ。ソーマはオレの大アゴにもたれてくすくす笑ってる。

 そういえば、オレ、おっきいギラファに戻ったなぁ。
 なんでだろう?って聞きたくても、もうソーマと言葉も通じないなぁ。

「ギラファ」

 なんだよ、ソーマ。

「戦ってるときだけじゃない。お前と俺はずっと一緒だからな」

 額の傷痕にソーマの唇が触れた。
 ・・・
 オレ、もう絶対でっかいギラファのままがいい!
 ソーマのこと大好きだから、絶対絶対一緒だから。

「・・・オマケ、よね。アダーも悪戯好きだから」

 小さく、不思議っ娘パムが呟いた。





「・・・ふん。ギラファは元に戻ったか。少しはポポとソーマの仲を崩すかと考えたのに」

 通信用のパム(お人形サイズ)の報告を聞きながら、アダーは原稿用紙に描き付ける手を休める。
 隣の机でセラン(成虫)がバンバンと手を鳴らした。

「アダー!早く描かないと入稿間に合いません!ポポソマのネタに詰まったからって、他のカップリングを仕掛けるのやめてください。トーン貼り手伝いませんよ?」





おわるのだ。



同人オチでした。
アダーさま、デジタル入稿も考えてみては如何かと。(笑)

2006.04.29-05.03


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