「何者かに飼われていた、ということか」

 パムを守るサーカス団の記憶が奪われていたこと、ソーマはそんな風に言う。
 違う、と訴えようとしたポポに、

「ま、そんなもんだな」

 諦めたようなビビ。
 飼う、ってどういう意味?




支配者の証





 3人は、いや、パムさえも、何者かに操られていた。それは間違いなくアダーか、そちらの手の者だ。
 なら、真実を突き止める理由はある。このまま進むべきなのだろう。
 迷わなくてもいいのに。
 ソーマの笛は月光をさらに硬質なものに変える。

「ソーマも、どこかにいっちゃうの?」

 ポポが泣きそうな顔をしている。というか、さっきまで泣いていたようだ。
 笛の音が止まってから、足音を忍ばせてつゆくさの葉の上に舞い降りてくる。

「傍に置いておきたいんなら、翅をむしってしまえばいい。じゃないと飛んでいってしまうぞ」
「そんなの、じゃないよ。友達も、仲間も、虫たちも、森も」
「ポポに俺は必要ない。おまえには守護者の証があるだろう」
「大好きで、大切で、守りたいだけだ」

 月明かりに、切々と訴えるポポの瞳が潤んで光る。
 ウソじゃない。唇が温もりを求めて触れる。

 かちゃり。

 守護者の証がふたりの間で揺れて、ソーマは身を引いた。

「支配、するのか?俺も」
「翅なんか取らない。逃げたければ逃げればいいんだ」

 簡単な挑発。
 今度はソーマがポポを引き寄せてキスをする。
 ポポが驚いていたのは一瞬で、そっとソーマの形のいい顎に触れた。

「…痛っ!舌咬んだ!」
「お、おまえっ!…それはっ…大人がする、ことだろ?」
「大人が、じゃないよ。大好きな人に気持ちを伝えるキスだよ」

 ポポに抱きしめられて、逃げ出したくても逃げられない。
 毒を受けて麻痺したみたいになるくせに、体温が下がるどころか熱くて力が入らない。
 もう一度、ポポの舌が強引に唇を割っても、ソーマは抵抗できなかった。

「おまえの、血の味がする」
「ぼくの味だよ。ぼくの全部をソーマにあげる。だから、」

 離れていかないで。
 囁き声が続いた。

 血の味を覚えて、ソーマは自分が赤い目の甲虫になった気がした。
 引き裂いてしまえば、全てが終わるのに。




おわる。


とっくの昔に落ちているのに、それを認めたくないソーマさま。
誇り高く、けれどか弱き森の民。(苦笑)

2006.04.25


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