早く逃げ出さなければ、
 早く殺してしまわなければ、
 何か恐ろしいものが皮膚を食い破って生まれてくるだろう。




寄生愛





 一緒にごはん食べて、一緒に歩いて、一緒に樹液を探しに行って、
 一緒にハチから隠れて、一緒に休んで、一緒に・・・、

 ポポがソーマにまとわりつく。
 ソーマはポポを無視するわけでもなく、かといって相手をするわけでもなく。

「あいつら、何かあったのかぁ?」
「ポポ、なんだか一生懸命ですよね?」

 チビキングとセランはふたりと離れて飛びながら、それとなく観察してる。
 本当はチビキングはポポのそばに、セランはソーマのそばにいたいけれど、一見いつも通りにみえるふたりの間に触れられないような緊張感が漂っていて、なんとなく近寄れなかった。

「あっ」

 ポポが転んだ。どう見てもただの不注意で。
 助けようと手を伸ばしかけて、ソーマはその拳をぎゅっと握りしめた。

「いつでも助けてやれるわけじゃない!俺のことはどうでもいいから、おまえがしっかりしろ!」

 普通じゃない怒鳴り声。
 やっぱり何かおかしい。ちいさなふたりが顔を見合わせた。

「なあ、何があったんだよ?」
「別に、なんでもないよ。今のは、ソーマの言うとおりだろ?」

 ソーマが離れると、ポポの緊張が解けた。
 目の辺りをこしこしこするので、泣いてるのかと覗き込んだチビキングが落っこちる勢いで、今度は大きなアクビをするポポ。

「ソーマさま、大丈夫ですか?…ソーマさま?ソーマさま!?」

 先を行くソーマがりんどうの茎に寄りかかるように膝を付いて、パッタリ倒れた。
 セランの悲鳴を聞いて、ビビたちが急いでソーマを抱き起こそうとすると、ポポもその場にぺたりと座り込んだ。

「心配ないよ、多分。ソーマ、ここ何日か全然眠ってないんだ」



 めまいがして、足元の感覚が無くなった。
 真っ暗で頼りにならない雲の上を歩くような、不安だらけの夢を見た。
 ぼんやりと目覚めてもあたりは暗く、けれど酷く温かかった。

「え!?」

 ソーマが慌てて飛び起きようとすると、温もりの正体、ぴったり寄り添って眠っていたポポもぱちりと目を覚ました。

「おはよ、ソーマ。っていってもまだ夜中だけど」
「なんで、俺・・・、ポポもなんで一緒に寝てるんだよ?」
「…今日こそは絶対逃がさないからね」

 ポポの静かな宣言に怒りが混じっていることに気付いてぎょっとする。
 あたりを見回して、ビビとブーが同じテントにいないことを確かめて、ソーマは観念した。

「これじゃ逃げられないだろ」
「ソーマ、何か悩んでるの?」

 ソーマは昨日の夜だけで、十数本の枝切れを削って納得できる尖りの3本以外は全部炎の中に投じた。
 無心になろうとしても、何か迷いに囚われているのがポポにはわかった。
 ポポはソーマが眠るまで一緒に起きていたわけで、眠らないポポに気付いたソーマは余計に眠れなくなったのだ。

「ねえ、何を考えてるの?」
「…どうやったら、おまえから逃げられるか…」
「ごまかさないでよ」
「ごまかしじゃない。ウソじゃない。俺は、おまえが恐い。温かくて、その居心地の良さに甘えて、溺れてしまいそうで、恐い。」

 言葉にしてしまうとあまりに簡単な思いで、ソーマは自分にがっくりする。
 ここ数日、懸命に虚勢を張って逃げようとしていたのに。結局は自分のプライドが邪魔して根負けだ。
 温もりなんかいらない、ポポなんていらないと、何度も言いかけてやめてしまった。

「ぼくにはソーマが必要だよ」

 ポポがソーマの頬に口付けて、耳朶を噛んで、首筋を舌先でくすぐる。
 ちくり、刺すような痛みに耐えていると、まるで寄生されるみたいだと遠くなる意識の中でソーマは苦笑する。

「大好きだよ、ソーマ」
「おまえなんか嫌いだ、って言えたらいいのに」

 唇の温い戯れは、再びふたりが力尽きて眠るまで続いた。


 逃げなければ、
 殺さなければ、
 やがて自分が溺れて死んでしまうのに。




おわる。


とにかく「悩む」のがソーマさまの美味しいポーズです。
で、悩んでるうちに食われてしまうんだよなぁ。(笑)

2006.04.22


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