昏い水の中、映った影は何故かポポの姿をしていた。

 ポポが水の中にいるのか?
 俺が水の中にいるのか?

 手を伸ばすと、水面を突き破って現れるポポの手。
 救いを求めて水の中を探る。
 ポポの指は俺の首に絡み付いて、気道が締められてゆく。
 水の中のポポの目は赤く染まっていた。




水の中



「ソーマ、大丈夫!?」

 眠りから揺り起こしたポポの手が、本気で恐ろしかった。
 思わず、払いのけてしまう。
 気遣わしい目に戸惑いが混じる。

「あ、…すまない」
「頭、まだ痛む?どこか他に怪我してない?」
「どこも痛まない。大丈夫だ」

 チョークに操られ、子供たちの村でヴィゴを襲ってしまった。
 バビのありがたい一撃で正気に戻れた。それはもう平気だ。
 痛むのは簡単に操られてしまった意思だ。

「操られるなんて…。俺はあの時、本気でヴィゴを殺そうとして、そして、ポポも」
「あれはソーマじゃないよ」
「俺だ。俺の中に、あるんだ…」

 水の中に沈んだ、昏い感情。
 チョークはそれを釣り上げて支配した。
 今はまた沈んだけれど、水底で泥を巻き上げて、苦しそうに泡を噴いている。

「俺は、恐かった」

 心を縛られること。
 操られること。
 そして、

「もし、お前が操られたら、俺を殺すのかな」
「ぼくが、ソーマを?そんなこと絶対無いよ」
「…そうだな」
「ソーマだって、同じだろ?」

 ポポの目は俺を信じきっている。
 不安を振り払うように、笑ってくれる。

「…そうだ、な」

 水に映すように、笑って返す。

 でも。

 水の中で俺の首に絡みついた指は、本当はポポの首に絡みついた俺の指。
 いつか、夢ではなく…。




おわる





ポポとソーマは似ているとパムが言う。
水の中に映った自分が、いつの間にか姿を変えて隣にいるみたいな感覚。
ポポが光でソーマが影で、互いに欠くことができない存在、なのだと思う。妄想。

2006.06.08


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