寝床は上等だった。今までに比べれば。
 なのに、眠れなかった。




tinker



 消えかけた火種に小枝を散らして息を吹き込むと、揺れる炎が甦る。
 夜更け、まだ明けの空は遠い。

 初めての、ひとりではない旅。
 水も食料もひとり分ではなく、皆で皆の分を探す。
 多ければ無駄の無いように貯め、少なければそれはそれで分ける。
 ひとり旅よりもリスクは少ないように思う。
 寝場所も、夜露を凌げるようにテントを作ることが何人かいれば簡単だ。
 今までは、葉陰で野宿をしていた。

 落ち着かない。
 安心なんて。
 誰かが傍で安心しきって眠ってるなんて。

「あれ?ソーマも起きてる?」

 大あくびをしながら、ポポがテントを這い出してきた。

「ビビもブーも、今日は一段とイビキがすごいや…眠れないよね?」
「寝入ってしまえば聞こえないだろう?お前、さっきまで寝てたくせに」
「それは・・・、ソーマだって同じだろ?寝入っちゃえば聞こえないって」

 寝入る以前の問題だ。

「ちゃんと休んでおかないと、明日動けなくなるぞ」
「そっくりそのままソーマに返すよ」
「俺は平気だ」
「ぼくだって」

 負けん気の強さに、平行線になりそうな会話を諦める。
 どう見たって、ポポは寝なくても平気みたいには思えない。瞼が半分落ちてるし。

「起きてるんなら、俺の鞄持ってろよ」
「鞄?」

 枕代わりだ。
 厚めの綿が入ってて、抱いてるだけでかなり暖かい。

「ソーマは何するの?」
「矢を作る。こんなのはついでだ」

 眠くなるまでの作業。もののついでみたいなもの。
 ふと、そんな説明をする必要もないのにと気付く。
 また何か言い訳を考えてると、ポポは炎の前で早々と目を閉じてしまっている。

「馬鹿だな…こんなところで…俺と一緒にいること、無いのに」

 枝を削って、気に入らなくて炎に入れる。
 枝を削って、ハネをつける。
 何度か繰り返して傍らを見ると、ポポは鞄を抱き込んで寒そうに丸まってる。

「おい、寝るんならテントへ戻れ。風邪引くぞ」
「・・う・・・・ん」

 目覚めそうに無い。
 毛布を取りにいく気はしない。
 自分のコートを脱いで掛けてやろうかと思ったけれど、外気はかなり冷たかった。
 
「世話の焼ける・・・」

 少し移動して、コートの端にポポを入れてやることにした。
 また小枝を削っていると、丸まったポポがごそごそ動いて俺の腰あたりに貼り付いた。
 温もりを求めて。
 温かいけれど。
 温かい、けれど。
 安心しきって、眠っている。

「だぁいじょーぶ、だ、よぉ・・・」

 幸せそうな寝言。
 何が大丈夫なんだか。
 世話が焼ける、な。

 いつの間にか 枝を削る手が止まった。



 ふっと誰かの息の音。
 目を開けると、パムが消えかけた火種に小枝を散らして息を吹き込んでいる。
 白い朝もやの中、小さな炎が甦る。

「ソーマ、眠ってた。疲労、少し回復」
「あ、うん。でも割と眠れたし…」

 座ったままだったけど、眠れてよかった。
 背中にうずくまるヤツのお陰、かな?
 それを言うのは絶対嫌だけど。
 はずみをつけて立ち上がると、温もりが地面に落っこちる。

「え!え・・・??さ、さむっ!は、はあ、はあああ、はくしょい!」
「ポポ…お前、あくびかくしゃみかどっちかにしろよ…」

 笑わないパムがほんの少し目を細めた。




おわる






あーもーこのふたりはいつも一緒に寝るが良いよ〜♪

2006.06.04


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