まだ見ぬ空





 駆けて、駆けて、駆けて、駆けて、
 息が切れても、咽が焼け付いても、足が、体中が悲鳴を上げても、
 止められなかった。

 どんなことをしても、全部からっぽにはならない。

 暗闇に足を取られて、転がったのが草地でよかった。
 よかった、なんて思うのは、まだ自分に欲があるからか。

 昨日までは妖しい光を放っていた輝きの森は無く、全ての命は星に還り、森も、真の暗闇では無くなった。
 セランが撒いた生命の光がこの森にも、ここそこに。
 吐く息を白く見せるのも、その光?
 星の明かり?

 これから、どこへ行く?

 帰る場所は無い、といえば無い。
 ある、といえばどこへでも帰れる。
 そうではなくて、行く先だ。

 どこまでも旅をする。この世界を。
 モニカ婆さんのように、冒険してみるのもいいかもしれない。
 アダーや父や船のような、星の過去を知りたいとも思う。
 それも、いいかもしれない。
 けれど。

 樹々の隙間から、チカリと降る光がある。
 目を閉じれば。

 何も無い星に、赤い光が舞い降りて、碧に弾けて、生命が満ち溢れる。

 目を開く。
 やけにはっきり見えたその光景は、夢幻とは思えない。

「まだ見ぬ空へ生命を運ぶ、か。・・・俺も、行こう」

 口にしてから、その目標への途方も無い困難に気付いたけれど。
 不思議な確信があった。

 まだ見ぬ空へ、いつか飛ぶ。
 セランの元へ、いつか行く。

 決めてしまうと、全ての現実が帰って来た。
 別れた仲間のこと、虫たちのこと、森のこと。
 父のこと、母のこと。
 自分が疲れていること。
 羽音を聞けば、樹液へ行けそうだ。
 とりあえず、今夜の目的地は決まった。

 旅は、また始まったのだから。



おわる。






最終回直後。


2006.06.26


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