faraway
星読み台に先客を見つけて、ポポはほっと息を吐く。
蛍石の窓の向こうに鮮やかな夜空が透けて見え、ソーマはその1点を遠い目で見てる。
「まだ起きちゃダメなんじゃないの?パムに怒られちゃうよ」
時々たずねてくるこの友は、旅の疲れを癒すために寄ることが多いが、今回はなんと矢傷までこしらえてきた。森のそばで、落ちた数百の蝶に埋もれてたのは5日前のこと。
「ビビが謝ってた。北の森で、ビビの代わりに戦ったんでしょ?」
「俺は、何年か前に消えたヤツの剣を借りただけだ」
ビビの故郷の森はもう無い。
北の森はその年の天候次第で恵まれるものに随分な差があって、弱い森の民は滅びてしまい、豊かな森は力あるものに襲われることもよくあること。
森を守るためだけじゃなく、他の森の民からも守るため、北の森の民は強くなる。
けれど。
「結局、守れなかった。子供を逃がすのが精一杯だった」
「ビビは、弱い者は死ぬのが掟だって」
「まだそんなことを」
「言いながら子供たちの面倒みてる。だから強く育ててやるって」
ソーマが持っていた剣は、かつてビビがビビでなかった頃、故郷の森を守っていた剣。
持ち主がいなくなった後も、長老が捨てきれずに持っていたもの。
弱った村は森を転々と移動しながら、滅びの時を待っていた。たまたまそのときに、ソーマは通りかかっただけ。
「オヤジが…今は少し、オヤジの欲しかったものが解かる」
「力があれば守れたと思う?」
「ちょっとは、な。全てが無駄だったとは思いたくないし、後悔も軽くなるだろう」
「残ったものもあるよね」
戦いなんか望まない。けれど、戦わなければ守れない。
いっそ、戦いなんか無い世界になればいい。
「感傷だな」
「それでもまだ旅をするんでしょ?」
ソーマが苦笑する。
視線がまったく動かないから、ポポもなんとなく同じ方向を眺めてみるけれど、星の光が揺れる他は何も見えない。
「あっちに何かあるの?」
「呼ぶ声が聞こえる。お前は聞こえないのか?」
こころを澄ましてみても、ポポには森の声以外は聞こえてこない。
「いつか、あの声の場所まで旅をするかもしれない」
「そうなっても、またここへ帰ってきてよね」
「迷惑じゃないのか?」
「迷惑だよ。だから怪我なしで帰ってきてよね。絶対だよ」
ポポに呼ぶ声は聞こえなかった。
けれど、遠く遠く、揺れる光の先に、ソーマを呼ぶものがある。
行かないで欲しい。とは、言えない。
「まだ遠い」
「何が?」
ソーマの答えは無かった。
おわる。
ビビ故郷は、ビビ(守人)が居なくなって滅んだの〜と脳内。
2006.06.02
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