零れ落ちそうになる想いを懸命に留めて、胸の中にしまいこんだ。
 たったひとつぶ、結晶に変えてソラに飛ばした。
 誰にも知られないように。




望郷





 碧に輝く森が続く大地の上、私の居所だけはこの星にたどり着いたときと同じまま。
 黒く、まるい、クレーターの中心。
 かつて、輝きの森と呼んだ場所もこんな形だった。
 今頃、あの場所は花で満ち溢れていることでしょう。私がそう願ったのだから。

「女神さま」

 進化を遂げるに相応しい場所。
 私の手のひらから生まれてきた命を、見守り続けることになるのでしょう。

「女神さま」

 時折接触する森の民は、私の名を知らない。
 けれど、かつて私と出合った者たちとどこか似た容姿に、どうしようもなく切なくなる。

 私が生まれた茨の森に似たものを作った。そこにササラ婆はいなくても。
 火の山と温泉も作った。ポポたちと再び出会ったあの場所を。
 そして、あの渓谷。ソーマに初めて会った場所。
 時間を進めて琥珀も作った。美しい花園も作った。化石の森も。
 それから、それから、

「女神さま」

 そこに、セランの名を呼ぶ者はだれもいない。

 帰りたい。
 ソラを見上げると、輝く星空。
 目を凝らす。ずっと高く、ずっと遠く。
 小さな、小さな、碧い星。私が生まれた星。大切な人がいる星。
 手を伸ばせば届きそうで、でも決して届かない。

 帰りたい。

 零れ落ちそうになる想いを懸命に留めて、胸の中にしまいこんだ。
 たったひとつぶ、結晶に変えてソラに飛ばした。

 遠い場所でたったひとり、その涙に気付いた者がいることも知らずに。




end






何が納得いかないって、セランがひとりで飛んでいったことだ!



2006.04.23


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