旅人が訪れた。
胸に琥珀のドングリを下げた男だった。

「森の守護者がきてくれた。これで、この森も元気を取り戻すことだろう」
「遺跡を守るお役目も私たちの代で終わりでしょう」

優しくて力強い、森のような男だった。
一瞬で憧れた俺は家を飛び出し、お気に入りのクヌギまで走った。
小さなドングリを捜して、守護者の証みたいな首飾りを作ろう。
あの人、どんな顔をするだろう。

緑色にピカピカ光る小さなドングリを見つけて、枝から落とした時。
急に、腐臭が立ち込めクヌギがしおれた。
緑色の光はドングリからではなく、背後の、遺跡から。

森は、一瞬で腐れた。
森に生きる者も、枯れた。
驚愕したまま互いを守ろうとした両親も、そのままの形で息絶えていた。
森の民は命尽きれば再び新たな命に替わる為、光になる。
けれど、両親は光になどなっていない。枯れてしまった。
守護者の証を下げた男が立ち尽くしていた。
何もかもが恐ろしかった。
ただ、逃げることしかできなかった。

黒く変色したクヌギの根元に、まだ青く小さなドングリが転がっていた。
俺は、泣きながら、枯れた両親のそばにそれを埋めた。
決して芽吹くことなど無いドングリを。




17.形見




パサーのお話をちょっぴり創作。

2006.04.06


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