ある日の夕刻。
 雑談がてら集まった白井農場のリビングで、睦月がふとしたギモンを口にした。
「橘さんって、どこで寝泊りしてるんですか?」と。
 橘が曖昧に言葉を濁そうとするが、追求は止まらず。
 どうやらBOARDの跡地に入り込んで休んでるらしい。


ボクらの居場所


「橘さん、もしちゃんとした行くあてとかが無いんだったら、よかったらウチ来てくださいよ〜」
「その気持ちは嬉しいけど、それじゃキミに悪いだろ?今でも二人…」
「あ、その代わり取材させてくださいね♪」

 栞がはあ〜っと長いため息をついた。

「そーだよっ橘さん!ココ、まだ部屋いっぱい空いてますし!それに一部屋が結構広いんで一緒に…」
「あ、それじゃ俺も来ていいですかー?」

 家主の断り無しに一気に話を進める剣崎に、焦ったように睦月が食いつく。

「睦月!?お前はまだ学生だろ?」
「そりゃあそうですけど。でも今の、アンデッドがいつ出るかわからないような状況で普通に学生やってられませんよ?」

 さすが言い訳上手な最近の高校生って感じだ。

「そりゃま…そう…ああいや、違う!勉強は!?」
「橘さん、アメリカの大学出てるってホントですか?」
「あ、まあ、一応」

 なんで知ってるんだ?睦月。

「俺、英語苦手なんですよー。よかったら教えてください!それとライダーの修行もよろしくお願いします!」
「お前がココにいるんなら、ライダーの修行は俺がつけてやってもいいんだぞ!」
「そうだな。剣崎も先輩としての自覚が出てきたって感じだしな」

 誉められてめちゃくちゃ嬉しい剣崎。撃たれても撃たれてもめげずに橘さんについていった甲斐はあった!

「でしょー!な、睦月、橘さんは諦めろ!」
「何言ってるんですかー!剣崎さんには相川始とかいう人の面倒も見なくちゃいけないんでしょ?」
「その名前を言…」
「うわああっ!!!!僕はカマキリも嫌いなのに!!!」

 剣崎が止める前に、虎太郎が絶叫し部屋中にコダマする。
 栞が盛大にはあああ〜〜っとため息をついて、改めて橘に向き直る。

「橘さん…、どうします?私は橘さんがここに一緒にいてくれた方が心強いんですけど」

 さすがはお父さんという風格だ。お願い言葉なのに、有無を言わせない迫力がある。

「え、うん。じゃあお世話になろうかな…」
「「「やったー!!!」」」

 剣崎、虎太郎、睦月がはしゃいで飛び上がる。
 その喜びっぷりに橘が一瞬退いた。

「橘さん、俺の部屋来てくださいよっ!ベッド空けますから」
「そんなことしなくったって、僕の部屋なら空きベッドがすぐに出てくるんで、そっち是非」
「えー?ここの客間ってすごく広いんですから、そっちに二人でどうですか?」
「え」

 3人の勢いに呑まれて変な声をだしちゃった橘。そして勢いづいた3人は視線で互いに牽制しまくっている。

「はいはいはい。やめなさいよ、3人とも!下心が丸見えよ?」

 橘がひっそり呟く。
 下心…俺の周りで下心?(わかっていない)

「橘さん、私の部屋来ます?」
「「「ええー!?ずるいよ広瀬さん!!」」」
「煩いわね!あんたたちのところに放り出したら何が起こるかわからないどころか絶対何か起こるに決まってるじゃない!」
「だからって、広瀬さんは一応女の子じゃないか!」
「一応って何よ、剣崎くん?」
「あ、いや、申し出はありがたいけど、俺も広瀬のことはちゃんと女性だと思ってるから一緒はマズいと」
「橘さん、フォローになってないよ?」

 橘の寝場所を巡っての攻防戦は暫く続いた。
 その様子を唖然と眺めていた橘はなんだか少し嬉しい。下心とかよくわからないが、望まれているのは本当らしかった。
 嬉しくて暖かくて安心できる場所。小夜子の診療所と同じ空気がここにある。

「あ」
「……あ」
「………橘さん、寝ちゃった?」

 ぴたりと言い争いを止める。3人でそーっとその寝顔を覗き込んだ。
 伏せられた睫毛がさらりと落ちる前髪に隠れてる。閉じた口元は幸せそうに笑んだまま。
 深い寝息はここが安心できる場所である証拠。

「よく寝ちゃえますね?こーんなに騒がしいのに」

 栞が橘にケットをかけると、一同はそーっとリビングを出た。


 部屋割りバトルはまた翌日に持ち越し。



end



うわ、温い・・・!!!
何気にサヨコを持ち出すあたり、吹っ切れてないのですが。(笑)
そのうち、本気で総ウケにしてやりたいもんです。

2004.07.03


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