切望



「あな た ごめ なさい」
「逝くな…、待ってくれ!必ず助けると、約束しただろう!?」

 白いシーツの上で、頬の色まで白くして。

「信じろ!…今の研究が進めば、必ずおまえを助けることができるんだ!」
「あなたは いつ  ・・う」

 かすれた声でつぶやいて、か細く笑う。
 冷たくなった指先を手のひらで包むと、僅かに力が戻る。

「まって いま す …たし あなたを おいて …ていけな 」

 すっと力が抜ける。
 一瞬ドキリとするが、深く静かな呼吸が聞こえて安堵する。

「・・・お父さん、お母さん眠っちゃったの?」

 戸口を振り仰げば、青ざめた表情の娘がいた。
 頷いて答える。

「お母さんを、頼む、な」
「お父さんはまた研究所なの?」

 責めるような娘の口調は、妻のそばについていてほしいと語る。
 けれど、それはできない。
 医師に告げられた検査結果には一刻の猶予も無い。

「今、お父さんがしている研究は、お母さんを助けるためだ。だが、それだけではないんだよ。お母さんが救われれば、他の同じ病気の人、いや、この世から病気なんてものは一切無くなるんだ」
「・・・それ、本当なの?」
「ああ。・・・お母さんは生きる力を取り戻す。必ず…私が助けてみせる」

 妻の手を包む役目を娘に代わる。
 心配そうな娘の肩を軽く叩いて励ますと、娘も妻とよく似た笑顔を見せてくれた。

「お父さん、がんばって」
「ああ」

 静まり返った病室の群れを足早に抜け出る。
 月の無い深夜に、希望まで無くしてしまいそうな予感。

 違う。
 私は、必ず助けると約束したのだから。




end



愛するものを助けられなかったという無念。

2004.11.17


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