揺れ動く心の裏側



side Mutsuki
「やめろ 睦月 やめろ!」


強くなりたい 強くなりたい
あのひとよりも

剣崎さんよりも
橘さんよりも
そうしたら 蜘蛛の力も抑えられる
俺が 一番 強くなる

・・・・・・そうだ 睦月 強くなりたいのだろう?

違う
お前の力には従わない 従いたくない
戦って お前を従えるのは俺だ

・・・・・・同じだ 睦月 俺とお前は同じだ

戦って勝つことでしか自分を残せない
それが運命だというのなら
全てを目の前から消して 消して
邪魔なもの 全部

・・・・・・お前が ただひとり 勝てばいい


「た ちばな さ  ど して おれ」

・・・・・・何故震えている お前が勝ったのだ


こんなこと 望んでなんていないのに

違う

望ん だ?




side Sakuya
痛い。
痛い。
痛いということしか解からない。
耳鳴りがする。

…目を覚ましたぞ
…大丈夫かい?君

耳鳴りだと思っていた音がゆっくりと本来の音、サイレンへと変わって聞こえる。
痛みの方へ手を伸ばそうとしたが、指先が痺れたように動かない。
代わりに、僅かに人の手が触れる感覚がする。

…名前、言えるかい?

そうか。救急車なのか。
答えなくては。
靴を脱がされ、足が楽になる。急即に感覚が戻ってくる。

「たちばな さくや」

…連絡先は?

思い出した番号は…今は使われていない。
次に思い当たったのを言ってみた後で気付く。それは俺の携帯番号だった。
意味が無い。

…話せるかい?どうして、あそこで倒れていたのか。

記憶を探る。
思い出せない。
ズキズキと痛む個所が熱い。

思い出せないのは、その記憶を呼び覚ますことが精神のダメージになるからだ。
大丈夫だ。
思い出せ。

「  つき」

…え、何?

「いえ つまづいて おちた んです」

はっきり覚えている。
その瞬間の睦月を。

…事件ではないようだな。警察は要らないだろう。

睦月。
俺は お前を救いたい。
それが 今の俺が 絶対に
しなければ

 ならない 

   こと 
      だから




side Tarantula
何も犠牲にしたくない
急に遠くなった視線は、亡くなったという恋人を見つめているのか。

「そういえば、烏丸所長が桐生という人のことも気にしていたが。彼は?」

橘が再び戦っているのならば、桐生がその背を押しているはずだと。
彼らにとって大きな助けになっているだろうと、烏丸は言っていた。
なのに、ここに来てからずっと、その存在も気配も感じられない。

「俺に、戦うことを託して、死にました」
「託す?」
「何も犠牲にしたくない、そう、戦うことから逃げようとした俺に、
 失いたくなければ戦え、と。
 この手に力があるのなら、己の正義を護りぬけ、と」

恋人の死が手にある力、桐生の死がそれを揮う意志。
淡々と語りながら、瞳に宿る感情は静かに熱を持つ。

「レンゲル、カテゴリーAは俺が封印しました。アンデッドの意志に操られて。
 俺の甘さです。
 そのレンゲルが、睦月の心の闇に棲み付いて離れない。…それも俺の落ち度です」

睦月くんは悪くない、か。
酷い怪我を負いながら、下手な嘘で誤魔化そうとしたり。
本当に救われなければならないのは、橘くん自身なのだけれど。
勿論、それを望んだりはしないだろうが。

「烏丸所長が言っていたよ。橘くんは責任感がとても強いと。
 でも、もう少し楽に考えてもいいだろう?」
「桐生さんにも言われました」

本当に可笑しそうに口元に笑みを浮かべた。
今まで私や剣崎くんたちに見せていた笑みとは違う。

「少し眠りなさい」
「嶋さん」

かざした指の間から、真っ直ぐな黒い瞳が私を捉える。
強い力に、引き寄せられてしまいそうになる。

「あなたを信じています。だから  俺たちを 信 じてください
 力があることと
  強さ は同じ じゃない。
    だから  封印 される なん て…」


指先にちからを込めて願う。
ひとときであれ、
この優しい戦士に安らかな眠りが訪れんことを。




side Spider
俺が勝つか。
カテゴリーAが勝って俺がいなくなるか。

・・・お前が俺に勝てるわけがないだろう?

「そんなこと無い!……そんなことは…」

何がいけなかったんだろう。
橘さんに怪我をさせたこと?
それ以前に俺が橘さんに鍛えてもらったりしていなければ、もっと早くに諦めたかもしれない。
いや、それより前。
ベルトを拾ったから?拾わなきゃよかった?
剣崎さんにベルトを取り上げられた時にちゃんと渡していればよかった?
違う。
剣崎さんに会わなければよかった。
仮面ライダーに会ったりしたから、俺はこんなことに巻き込まれて…。

・・・俺がお前を見逃すとでも思っているのか。

「だって、そうだろ!?」

・・・お前がブレイドに出逢う前から、俺はお前の傍にいた。

そ う だ
あの時、ひとりでバスケの練習をしていて お前に会ったんだ。
最初から、逃げられなかった…?

・・・お前の『闇』は心地良い。

「俺は、闇から出たいんだ!光が、欲しいんだ!!」

・・・力を貸す。お前は強くなる。邪魔なものは全部排除すればいい。

助けて…助けてよ。

「橘さん」

・・・俺が助けてやると言っている。カテゴリーKを探せ。力を手に入れろ。

「イヤだ」

・・・カテゴリーKを探せ!戦え!戦え!そしてカリスを倒せ!

いや だ  い や   だ


・・・苦しむんだな


冷たいひと言を思い出した。

知らなかった。
知ってると思ってたのに、解かってなかった。
大人の人はみんな優しいと思ってた。
そうか、みんな俺のこと、甘やかしてたんだよな。
あの人だけ、冷たかったのは、甘やかして無いからなんだ。


・・・本当に、お前の『闇』は心地良い。



end



関西は27話〜28話の間が異様に長いので(涙)
ついつい短い話をツラツラと続けてしまいました。
願望だらけです。

2004.08.10


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