01 恋愛せよ 02 嫉妬せよ 03 甘やかせよ 04 叱咤せよ 05 勝負せよ 06 戯れよ 07 遠出せよ 08 喧嘩せよ 09 芝居をせよ 10 意地を張れよ |
11 贈り物をせよ 12 抱きしめよ 13 拒否せよ 14 告白せよ 15 酒を飲ませよ 16 観察せよ 17 隠し事を(せよ/暴けよ) 18 束縛せよ 19 約束せよ 20 手に入れよ |
遠目に見えたムウとマリューに声をかけようとして、カガリは固まってしまった。
にこやかに談笑してただけじゃなくて、いきなりキスが始まって、どんどん濃厚になって、ついにはマリューが壁に押し付けられるようになり、その足元をムウの足が割っている。
固まってばかりはいられなくて、急いで物陰に隠れた。見てはいけないと思いつつ、ついつい覗き見してしまう。
反対側から近づいてくる足音に気付いて、二人はあっさりと離れた。そして、何事も無かったかのようにムウが手を振ってその場から離れる。
やっと、ドキドキから開放されて、力が抜けて壁にもたれる。落ち着こうとして深呼吸をしていると、
「どうしたの?こんなところで」
「うわあっ!」
いきなりマリューに見つかった。さっきのラブシーンを思い出して、頬だけじゃなく顔中が紅潮する。
「さ、え、フラガと、そのっ!」
マリューはあらあらといった風情で、カガリの慌て振りに少しだけ頬を染める。
「ごめんなさいね。多分、ムウはあなたに気付いてたんでしょうけど、さっきのキスは私がねだったから…。今は私もムウも止められないのよ」
「止められないって、キスすることが!?」
マリューは小さく苦笑した。
「恋することが、よ。愛することも、ね」
ムウはともかく(偏見)、マリューまでもがこんなに恋愛にだらしないとはカガリは想像していなかった。ちょっとショック。
ふと、我が身を振り返って、アスランに対してどういう態度を取っていたのか考えてしまう。
「あのね、人を好きになったり嫌いになったり、関わっていくことは誰に対してでもできることだけど、恋愛だけは違うのよ」
アスランもキラもラクスもキサカも、仲間たちみんながカガリは好きだ。 その中で、アスランだけは違う…のだろうか?
「特別な人にだけ、自分の全てをあげたいって思うし、相手が欲しいって思うわ」
アスランにだけ、…特別なんだろうか?
いや、やっぱりみんなが好きで、区別なんて無いとカガリは思う。
「…私には、そんな恋愛はできない。だって」
「こんな所にいたのか!? 探したぞ」
アスランの少し怒ったような顔。その後ろでキラとラクスがニコニコ笑ってる。
「立ち話してたくらいで怒るなよ、アスラン」
「ごめんなさい。私がカガリさんを引き止めてたのよ。じゃあ…」
マリューがこっそりとカガリに耳打ちする。
――アスラン君、あなたのことがホントに心配なのね。ステキな恋愛をしなさいね。
「マリューさん!」
マリューは悪戯っ子みたいに笑って、怒鳴るカガリから逃げ出した。
「マリューさんといったい何を話してたの?」
キラの問いかけには応えず、カガリは俯いたままアスランの腕を思いっきり引っ張った。
フラリと立ち入った格納庫の奥。
床面にピッタリ固定されているスカイグラスパーは、宇宙では無用の長物としてシートを被って眠ってる。
その真ん中がゴソゴソと動いて、思わず驚いた声を上げてしまった。
「おやおや。こんなところまで気晴らしか、坊主?恋するオトコは辛いねぇ」
「るせぇ!」
反射的に怒鳴り返す。ムウの言い方からして、さっきの言い争いを聞かれてしまったらしい。
「おっさんこそ何してんだよ?コイツの整備なんか今は必要ないだろ」
「まあね。ナイショだぞ…」
ごそごそとムウが見せたものは、露出が大目のグラビア雑誌。モデルがなんとなくマリューに似てるのが彼がこの本をココに隠している理由だろう。
「…歳とってるのに、ゲンキだねぇ」
「バカ言え。雑誌がマリューに敵うワケないだろーが。それに、歳若くてもスルことシねえよりマシだろ?」
グサっと傷つくが、本当なので突っ込めない。
しかし。なんでこの男とその女は、こんな戦場でもハッピーラブラブ光線出しまくりなんだ?
さっきの…言い争いを思い出すと、ため息が漏れてしまう。
「なあ。艦長さんの昔の男って戦死してんだろ?どんな人だったか知ってんの?」
「さあ?ちゃんと聞いたこと無いなぁ。ま、マリューのことだから、心底好きだったんだろうな」
穏やかに話すムウにまで嫉妬を覚える。
「じゃあ、その死んだヤツには敵わないって思わないワケ?」
「思うよ」
「妬かねぇの?おっさんは」
「・・・・・・・・・・」
ムウに思いっきり睨みつけられて殺気まで感じたので、とりあえず「ごめん」と言っておく。
「その死んだヤツにも、妬かせてやればいいだろ?」
グラビアをシートクッションの裏に隠して、席を下りるムウ。
「今、マリューを抱けるのは俺だけだ。死んだヤツにはできないだろ?」
「…そっか」
そうだよな。
今、アイツの怒った顔も笑顔も、見れるのは俺なんだから。
嫉妬の炎が消えかける。
ぼんやり考えてると、ムウは壁の通信機から何事も無かったかのようにブリッジに点検終了の報告をしている。今使う予定のない機体の整備なんて、とグラビア隠してたのはマリューにはバレバレっぽい。
『そういえばね、ミリアリアが不機嫌な理由ってわかる?』
マリューの後ろで噂の当人が「そんなこと無いです!」なんて叫んでる。
「知ってるよ。お嬢ちゃんと代わってくれる?その原因に話させるから」
ムウが俺を手招きする。
…正直少しありがたかった。
今なら、トールってヤツの話を聞いても不機嫌にならなくて済むかもしれない。さっきのことも謝れるかもしれない。
モニターに映ったミリアリアは、つつけば泣き出しそうな顔をしていた。
「あのさ…」
話しかけようとして、ふいにムウが小さく耳打ちする。
「けどなぁ。トールは本当にイイヤツだったぞ。お前はもっと嫉妬しろよ」
…え?
『何よ』
ミリアリアの不機嫌すぎる視線が、ものすごく痛かった。
フリーダムの調整をしていると、隣のストライクから通信が入る。
「はい、キラです」
『マリューだけど…ムウ知らない?』
「さっき仮眠を取るってブリーフィングルームに行きましたけど」
『そう。じゃあ、今起こすのは可哀想よね』
口調は気遣う感じなのに、表情は会えないことを残念にしてる。
年上のしっかりした女性なのに、こういうところはなんとなくフレイにも似てるな、なんて思う。
「ムウさんも起こしに来たのがマリューさんなら怒ったりしないですよ」
『そう、よね。でもそれって、私が甘えてるみたいで…』
この期に及んで遠慮がち。
「甘えてるのはマリューさんじゃなくて、ムウさんに見えますけど」
『それはいいのよ』
マリューが照れ混じりに笑むのがキレイだなーと思ったけど、ムウにそれを言うと半殺しにされそうなので、心の奥にとどめておく。それはそれで。
ムウがマリューに甘えるのは良くて、その逆は嫌なんだろうか。
『私があの人の帰って来る場所になりたいの。だから、いっぱい甘やかしてあげたいのよ』
「ムウさんも、同じだと思うんですけど…」
モニターの向こうでマリューがきょとんとする。
「あ、すみません。僕が勝手にそう考えただけで、だから」
『だから何?なんの話してんの?』
いきなり割り込んできた画面にはちょっと眠そうなムウ。
『あら、仮眠はもういいんですか?』
『なんだか目が覚めちまって』
さすが、電波を拾っちゃう人。眠っててもマリューの気配を拾ったのか。
『補給の件で相談したいことがあったんです。私一人では判断できなくて』
「あ、僕はもう整備終わりますから、ブリーフィングルーム使って話してください」
マリューがニッコリ笑って手を振って、モニターから消えた。
『なあ、なんの話してたんだよ?』
ブリーフィングルームであくびをしながらムウが問う。正直に教えてあげることなんてしないけど。
「ノロケられたダケですよ」
『ふーん。…まあ、いいけどね。マリューは俺の命綱だから』
最後に意味深なことを言って、ムウもモニターから消える。
甘えたり、甘やかされたりすることが命綱…なんだろうか。
フリーダムのOSを落とす前に、ふと思いついてエターナルへ通信を繋ぐ。
『ラクスです。……キラ?どうかしましたか?』
そうか。
大切な人への想いが命綱、なのか。
カガリは怒鳴り出したくて仕方が無い。ぐっと堪える。ひたすら堪えている。
そのうち、何を言い出したかったのか、判らないほど気弱になってくる。
M1アストレイの女性パイロット3人に囲まれているアスランは、いつものちょっと困ったような感じじゃない。何しろ得意のマイクロユニットが今日の話題なんだから。機械系に強い3人娘、あまり勉強をしていなかったカガリには、いつもに増して嫉妬の対象だ。
演習の終わったブリーフィングルームでそんな場面に出くわしてしまったムウ。
「・・・・・・(気付けよ!)」
アスランの方をみながら何度もそう思うが、鈍感なのか意地悪なのかちっとも後ろを振り返らない。
張り詰めた空気に耐えられず、ムウがこっそり話しかける。
「いいのか、お嬢ちゃん?このまま放っておいたら、あの坊主はアストレイ組に持って行かれちまうぜ」
「か、構うもんか。別に、アイツは私の所有物じゃないし」
「所有物じゃなくても、大事なモンなんだろ?」
カガリがため息をついて俯く。ついでにムウの腕を掴んで、ポツリとつぶやいた。
「アイツ、本当は私のことをどう思ってるんだろう」
いつになく気弱。余程自信を無くしてるんだろう。
「大事に思ってるんじゃないの?」
「そうかな?」
ちょっと強めにカガリの髪をグリグリかき回すと、迷惑そうにするどころか、ちょっと嬉しそうに笑った。
「そーやってアタマ触られるの、好き。…ありがと。自分の部屋に戻るよ」
カガリが大きな声で「じゃあな」と言うと、アストレイ3人娘とアスランが振り返った。
3人娘は「ちょっとやりすぎた?」なんてボソボソ言って、そのくせ反省したようには全然みえない笑顔で「私たちも戻ります〜」とブリーフィングルームを出て行った。
残されたムウとアスラン。
アスランがチラリとムウを見る。…じゃなくて睨んでる。
「カガリと何を話してたんですか?」
反射的に怒鳴る。
「気付いてたんなら、こっち来いよ!」
カウンター攻撃に一瞬気を飲まれるアスラン。ムウが盛大にため息をついた。ついでにアスランの頭もグリグリかき回してやる。
「な、何するんですかっ」
「好きなんだってさ!」
わざと主語を濁すと、アスランの顔色がササーっと変わる。
「……カガリのとこ、行ってきます」
無重力をふわふわと移動していくアスラン。面白いのと仕返しのつもりで、このまま放っておこうと決めた。
アスランが自動ドアを開けて出て行くのと同時に、マリューが入ってきた。
ムウの気がふと緩む。が、マリューの表情は渋い。
「ねえ、カガリさんがなんだか落ち込んでたわ。今すれ違ったアスラン君も落ち込んでたみたいだけど…」
「ああ、それは…」
マリューがピシっと姿勢を正して。
「あなた、いじめたんでしょ?若い子に意地悪しちゃダメじゃない!」
思いっきり大声で叱られて、ムウの体から力が抜けた。
―――誤解だってば。(半分は)
2004/05/10 LAST UP