Friend-Ship

白い墓石の下には、名前を刻んだ人の身体は何も入っていない。
僅かでも自分に残されたものがあったらその一部でも入れたのだが、彼の父は何も残していなかった。
だから、その下にあるのは写真だけだ。
親子3人で撮ったものではなく、バラバラの写真。
アスランにできることは、物言わぬ石に語りかけることだけ。

血のバレンタインの、あの日が近いこともあって、墓地にはアスランだけではなく、沢山の人が故人を偲んで訪れている。
今日だけは、この場所は暖かな日差しが途切れることはないように調節されている。
寂しいけれど、暖かさが父と母の優しかった思い出だけを甦らせてくれる。

「やっぱりここにいたのか。当然といえば当然だが」

アスランが顔を上げると、ザフトの軍服に身を包んだイザークとディアッカがいた。
2人とも休暇中だと聞いていたのに。

「お前のことだから知らないだろうけどサ。ニコルの墓もすぐ近くなんだぜ」
「俺だったら知らないって、どういう意味だ?ディアッカ」
「夢中になってるときには他に全然気が回らないって意味」
「同感だな。本当に知らなかっただろ?」

イザークが嫌味っぽく笑うが、アスランはそれに反論できなかった。

「後で連れてってやるよ。その前に、俺たちにもこの墓に参らせろ」
「え?でも、そんなことをしたらお前たちの立場が」

アスランはプラントでの全ての立場を捨てたが、イザークとディアッカは違う。
もし重戦犯扱いになっているパトリック・ザラに関係しているとみなされてしまったら、政治的にも立場が不安になる。
イザークはきつい眼差しを崩さず、ディアッカも柔和な笑みを崩さない。

「関係ない」
「しかし!」
「お前の親だ」
「俺たちって、お前の何?言ってみろよ、アスラン」

アスランは答えなかった。
その代わりに、墓石の前の場所を2人に譲る。
イザークはフンと鼻を鳴らして墓石の前に片ひざをつき、胸に手を当てる。
ディアッカはその後ろでアスランの肩を軽く小突いてから、静かに頭を垂れた。

「ありがとう。きっと、父も母も喜んでいると思う」
「違うな。喜んでいるというよりは、安心されただろう」
「そうそう。友達の少ないアスランに今はこんだけ人がいるってな」
「うるさい」

ディアッカに小突き返そうとして避けられ、イザークに別方向から小突かれる。
こんな風に話せる日が来るなんて、アスランは思ってもみなかった。
その日、初めて心から笑えた。

「すまないが、ニコルがいるところに案内してくれないか?」
「ああ、この斜め下のブロックだ」
「アイツのトコにはピアノの音が流れるようになってんだぜ。寝るなよ、アスラン」
「バカ。ディアッカとは違うぞ」
「…俺はアイツのピアノで寝たことないぞ。イザークは?」
「…俺も。てか、アスランは芸術への理解が足りないぞ!」

2人が眠る場所から離れていく。
3人で、もつれ合うように。



end



おほほー。全然カップリングじゃありませんでしたー。(笑)
バレンタインを期待してた方はごめんなさい。
2004/02/15 UP


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