てっぺんのほし
プラントの空は予定通り夕刻過ぎから粉雪を落とし始めた。
とはいっても寒いわけではなくて。
気温はかなり低めなのだが無風状態だし、雪だって融け難いように加工されている。
しんしんと積もってはいるが、それなりに防寒していれば寒くはない。
勿論、アスランを呼び出した元気娘はこの天候が嬉しくて仕方がないらしい。
「一番でっかいクリスマスツリーを見にいこう!」
色鮮やかなイルミネーションで飾られた公園の丘の上。
そこはもうたくさんの人…カップルが集まっていて、多くはしっとりとその明滅する光を眺めているのだが。
やはりというか、なんというか。
彼女は周りの状況など何も気にしないという風に、一直線にツリーに向かって駆けて行く。
「どこまで行くの?カガリ」
「てっぺんの星!あれが見える所まで!」
「あ、じゃあ、このあたりで止まらないと…おい、カガリ!!」
本当に真直ぐもみの巨木の下へ駆けて行き、ハタと立ち止まる。
「あれ?ここじゃあ全然見えないか」
「当たり前だろう!?真下だぞ」
「え、あー…うわぁ…」
カガリが上を見上げて、歓声を上げた。
つられて見上げて、俺は声を失くした。
「すごい。真下からみるクリスマスツリーもキレイだなー」
暗闇の中で、赤や黄色や緑、青、白い色、直接見える光ばかりではなく、木陰で薄く輝くその光は…。
俺には、綺麗というよりも、もっと別の、思い出したくないものを呼び覚まさせる。
「アスラン?」
呼ばれて、我に帰る。不審そうに見てるカガリ。
慌てて笑顔を繕ってみても、きっともう間に合わないけれど。
「お前、何か願い事ってないか?」
唐突に聞かれても思いつくことなんてなくて、首を横に振る。
ただ、カガリと一緒にいられればいい、というのが願いなのだが。
「何か探せ。そして、きっと叶えるから、一緒に来い!」
カガリはいきなり破顔したかと思うと、軽い身を翻してもみの木に貼りついた。
そのままスルスルと上に登っていく。
「あ、おい!カガリ!危ないだろう!?」
「スカートじゃなくてよかったー!ほら、どんどん登るぞ!」
こんな風にキラキラと目を輝かせてる彼女に何を言っても止まらない。それくらいは学習している。
一応、倒れないようにあちこちから支えが入ってはいるが、10メートルも登ると枝がだんだん細ってきて、バランスを崩すと木が大きく揺れてそれ以上は登れなくなってしまった。
「くそ、ここまでか」
「本当に…お前は何がしたいんだ?こんな木の上まで登らなきゃいけないことなのか?」
ようやくカガリを捕まえて、いつものパターンのお説教。
けど、今日の彼女は動じない。
つい、と上を見上げる。
「あれ、見えるか?」
指差したのは、てっぺんに輝いている星。
「プレゼント、何も用意してなかったから。クリスマスツリーのてっぺんの星を取ったら、願い事が叶うんだ。だから、あれをアスランに取ってやろうと思って。でも、取れなかった。ごめん!」
「俺も、プレゼント、用意できなかった。ごめん。けど…」
「けど?…何?」
カガリからのプレゼントは貰ったような気がする。
「なあ、下見れるか?」
「バカにするな。高いところは全然平気だぞ!」
「じゃあいいけどさ。ほら、向こうからこっちは見えないだろうけど…」
アスランが指差した先には、クリスマスツリーを見上げている、たくさんの人の顔。たくさんの笑顔。
「みんな、幸せそうだな」
「うん」
「俺は今、カガリがいてとても嬉しいけど、他の人が幸せなのも、いいよな」
「うん。みんなが幸せなのがいいよな」
もみの木の中で、輝くイルミネーションと白い雪に抱かれて。
そっとキスして。
今年の冬も 次の冬も そのまた次も
ずっと 一緒にいられたら嬉しい
ずっと みんなが幸せでいられたら嬉しい
そんな幸せをたくさんの人と祝いたい
Merry Christmas!!
文章の転載は、12/25までフリーです。ご自由にお持ち帰りください。
戦争で、たくさんの人が死んでしまったけれど。
いまもどこかで争いは続いているのだろうけれど。
せめてこの日だけは、みな幸せに。幸せな夜を。
2003/12/18 UP
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