Wings of Angels



「で?今日はどこに行きたいって?」
「教会へ。構わない?」

 戦争の煽りを受けてしまった、とても貧しい街だった。
 食料や衣料品を配布し、病院や学校を短期間で組織したのはオーブ軍。
 特務として与えられた任務をこなして、早1ヶ月。
 ようやく、街の治安も落ち着いた頃。

「寒いの?」
「え?…ええ。後でコートに入れてください」
「駅の中で待ってればよかったのに。何で外にいたの?」
「だって、雪が。嬉しいんですもの」

 マリューの手を捕まえて、ムウが自分のコートのポケットに一緒に突っ込んだ。
 ムウには雪なんてそう珍しいものじゃなかったけれど、彼女はとても嬉しそうに暗い空から落ちてくる白い綿を眺めている。

 本当にマリューの手は冷めたかった。
 手袋をしてるのに?
 いつもはもう少し暖かいのに?

「ちょっと、待った。マリュー、足怪我してる?歩き方がおかしくない?」
「…平気です…よ?」
「そんなことないでしょ?ちょっと見せ…て…!」

 足早に逃げようとするマリューを捕まえて、ロングコートの裾を少しだけ持ち上げると、そこに見えたのは、素足だった。

「ほどこしたの?」
「ごめんなさい。裸足の女の子がいて、どうしても見過ごせなくて、つい…」

 どんなに軍隊が与えても、それで全てが潤うわけではなくて。
 マリューが見過ごせなかったような、物乞いの子供も多い。
 その場で靴を与えても、それはその子供が履くわけではなくて、あっという間に闇市で売られて食べ物に換えられるのだ。
 そんなことがないように、自分達がオーブの代表として働いているのに。
 勿論、ほどこし等は厳禁で、オーブの兵士達は普通お金を持つことも許されない。
 本来ならば、その子供を保護する機関へ通報するべきだった。

「規則を3つばかり破っちゃったわ。…呆れた?それとも、怒っちゃった?」

 黙って下を向いてしまったムウに、不安そうにマリューが尋ねると、ムウはクスクスと笑いだしてしまった。

「君らしいね。いいんじゃないのー?」
「なぁに?笑うことないじゃない!」

 じゃれあいながら、二人で暗くなった夜道を歩いて。
 小さな小さな教会の前にたどりついた。

「あ、そうだ。俺もお願いしたら何かプレゼントがもらえたりするのかなぁ?」

 悪戯っぽく笑って、戸口の前にある大きなもみの木を見上げてるムウ。
 おもむろに靴を脱いで、「えいっ」と木の中に投げ込んだ。

「ちょっと、何してるの!?」
「サンタクロースって、靴とか靴下の中にプレゼント入れてくれるんだっけ?」
「まさか、靴下も…脱いじゃうの?」

 マリューが言ってる間に、サッサと靴下まで脱いでもみの木に引っ掛けてしまう。

「明日になって教会のボランティアが気付けば、あんな靴でも誰かにプレゼントするかもね。ほら、俺もマリューと同じ。裸足だよ」
「もう、ムウったら」

 ふたり、顔を見合わせて笑った。

 教会の中から、賛美歌が聞こえてくる。
 とても、幸せな、たくさんの歌声。

「俺、神様ってあんまり信じたことないけどさ。こんな時くらい、何かに祈ってみてもいいよね?」
「サンタクロースも、神様も、そして、あなたと私も。確かにここにいるから、幸せなの」

 肩にかかった雪を払って
 裸足の二人が扉を開けると
 そこには温かな祝福があった


 全てに感謝を



Merry Christmas!!


文章の転載は、12/25までフリーです。ご自由にお持ち帰りください。

さむくてあったかい、そーんなのが書きたかったのです。
二人一緒なら、雪の中、裸足でも平気って。
(実際そんなのは夢っぽーい!ごめんなさい)

2003/12/18 UP


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