Happy Birthday Dear Murrue
「マリュー、もうすぐ誕生日だよね?」
ムウが普通の声で言う。
休憩室にはブリッジクルーだけでなく整備班もいて、ムウのよく通る“普通の声”はその隅々にまで聞こえてしまった。
「そうなんですか?艦長!」
「おめでとうございますー!」
「何かお祝いしましょうか?」
「欲しいものとかありませんか?」
皆が矢継ぎ早に声をかけてくる。
正直、その勢いにたじろぎながら、一応笑顔を作ってまあまあと手で一同を制する。
「あの、ありがとう、みんな。でも、お祝いとかそういうのは、私は別にいりませんから…」
慌ててマリューが休憩室から出て行くのを、これまた慌ててムウが追う。
通路をベルトに掴まりながら、ブリッジと格納庫への分かれ道にきて、ようやくマリューが止まる。
「もう…、あんな場所で…言わなくてもいいじゃない」
「みんなマリューの誕生日をお祝いしたいんだって」
「じゃなくて、理由をつけて騒ぎたいだけでしょう?」
「それが解かってるんなら、祭りのネタを貸してやってもいいんじゃないの?」
確かに。
こんな殺風景な戦艦の中で、小さな娯楽でも、あればみんな飛びつくのだ。
しかし、マリューはあまり気乗りがしない。
「ホントに何もいらないの?」
「ええ」
「やりたいことって無い?」
「やりたいこと、ですか?…そうねぇ。MS作りたいです。でも、今は無理でしょ?」
「…ナルホド。ま、元々そっちの人だからね」
「1ヶ月程時間があれば、図面を起こしてブリッツやイージスを作り直したいです。壊れちゃったし」
言いながら、自分の指を弄ぶマリュー。口調は愚痴っぽいが、ムウが覗きこんだ表情はハッとするほど輝いている。
「イキイキしてるね」
「え?」
「何かを作りたいって言った時の君の顔。…よし、決めた」
「な、何を?」
「マリューさんへお誕生日プレゼント!」
「あらっ?何を頂けるのかしら?」
「内緒だよ。その日まで」
ヒラヒラと手を振って格納庫へ去っていくムウを、マリューは不安と期待を混ぜた気持ちで見送った。
そして。
あっっっっ…という間に10月12日。
朝一番にブリッジに上がったマリューは、ノイマン以下ブリッジクルーに丸一日の休暇を言い渡される。
自分ひとりだけ特別扱いは困ると何度も主張したが、
「じゃあ艦長がその特別の最初になれば、他のクルーにも同じことができますよ?」
とかなんとか言いくるめられてしまい、結局艦長室へ逆戻り。
「折角お休み頂いても…何もすることが無いんですけど…」
「「そんなマリューさんに、プレゼント!」」
見事にハモったムウとキラ(手下)の声に振り返ると、二人して大きな紙袋をいくつか抱えている。
「何ですか?…それ」
通路で話すのもナンなので、とりあえず艦長室へなだれ込む3人。
マリューをデスクに座らせて、まずキラの袋から…
「ニッパー、ヤスリ、紙ヤスリ、ピンセット、それからマーカーペンと絵の具と筆とパレット、エアブラシもあります」
「ま、まさか…これって…!」
信じられないと、目を丸くするマリュー。その瞳が少し潤んでキラキラと輝く。
次にムウが袋の中から次々とカラフルな箱を…
「さあ、どれから作る?」
「プラモデル!キャーッステキ!」
HGシリーズ、1/60シリーズ、1/100シリーズ、1/144シリーズ、クイックモデル…
SEEDのプラモが揃い踏み。
おまえら、バン●イの回し者か?
「…作っても、いいの?」
本当に本当に、幸せそうに目の前に並んだ箱を眺めるマリュー。
ムウとキラが顔を見合わせて笑った。
その日、休息に入るクルーにはプラモデルの箱とニッパー他道具が手渡された。
夕食までに発売されているHGシリーズを全て完成させたマリューが、フォビドゥンとカラミティの手に「レイダーも出せ」という横断幕まで持たせて10機のガンダムを休憩室のテーブルに並べると、クルーたちが作ったプラモデルも一緒にズラリと並べられ、その場は大ジオラマ会場と化した。
「マリューさん、お誕生日おめでとう!」
さりげなーく、EXメビウスゼロとスカイグラスパーをマリューの作ったガンダムの横に配したムウ。
一日の休暇を大満足で終え、子供みたいにはしゃいだ笑顔のマリュー。
この計画を考えた人に心から感謝する。
「ありがとう、ムウ!」
大好き、とは続けなかったが、思いは確実に伝わった。
おわり。
…こんな話ですんませんっ!
ホントにバ●ダイの回し者じゃないんですか??(笑)
いやぁ、マリュさん、ガンダム作りたいだろー?と。屈託無い笑顔も見たかったんで。
2003/10/07 UP
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