プラントの性格矯正施設にその少年はいた。
 …要するに犯罪者にその犯罪に向かわせた記憶を消して、新たな記憶を植えつける場所だという。
 少年のたっての願いで、キラとイザークはその施設へ向かった。
 イザークの手には、プラントにいた頃のフレイの写真。

「オルガ・サブナック、だ。何も無くてもいいと思っていた過去なのに、いざ失くしてしまうと、急に欲しくなるもの…なんだな」

 薄い緑色の衣服は、すでに犯罪者という印のものではなく、ただの治療を受けている患者のものだ。
 彼の両足は失われているが、すでに義足を使った訓練も行われていて、普通に生活するには支障が無いという。

「具合は、どうなんですか?」

 キラがたずねる。かつて何度も刃を交わした相手だとは思えない、穏やかな金髪の少年。

「まだ時々中毒症状が出る。けど、耐えられる。クロトとシャニと、フレイは死んでしまったのだから。俺に残った過去はそれだけだから」

 イザークが持っていた封筒の中からフレイの写真をオルガに差し出した。

「監視カメラに写ったものしかなくて、怯えた顔しか無い。それでもいいか?」
「構わない…ああ、そうだ、初めて会ったとき、こんな服を着ていた。俺が知ってる彼女も怯えたような顔しか無かった」
「イザークも、オルガも、フレイのことどれくらい知ってるの?」

 キラの問いに、二人が自嘲気味に笑う。

「クルーゼ隊長が拾ってきた捕虜が、何故か優遇されているのが気に入らなくて、睨みつけると縮み上がっていた。だが…、初めて見たナチュラルの女、弱いと思った。それだけだ」
「俺の記憶はほとんど消されているからな。知人の中で、どうしても消さないでくれと願って、故人だけが残してもらえた。彼女は、仲間のところへ帰りたいと泣いていたのは憶えている」

 オルガが写真に写った小さなフレイを確かめる。

「キラ・ヤマト、だったな。フレイの最期を知ってるんだろう?」

 ポツリと、俯いたままオルガが問う。
 イザークも見ていた、あの瞬間のこと。

「笑ってたよ」

 言って、キラも少しだけ笑う。
 フレイのことを思い出す時、キラの中には愛おしい気持ちで満たされる。

「俺も、笑った顔が見たかったな」

 オルガも、フレイの写真を眺めながら、ほんの少しだけ笑った。


 地球連合軍のMS、生体CPUとして戦ったパイロット。
 クロト・ブエルはその身体を回収することもできなかった。
 シャニ・アンドラス、かろうじて上体が残ったまま失血死。後に脳を機能させて思考力のある状態まで回復させられたが、本人に生き続ける意志が無かった為、記憶と記録だけを残して死亡が確定。
 オルガに許されたのは、未来だけ。





UNOFFICIAL-SEED
死んでたまるか!
オルガ編。

2003/10/05 UP


--- SS index ---