Lost in those memories


「―――以上、24名は本日1400、各小隊を率いて月艦隊コペルニクス基地で起きた暴動鎮圧の為、プトレマイオス基地から出撃のこと。…プラントが所有している企業関連事件でもあり、事態は多様な問題を含んでいる。君等の最善と思われる行動を期待する」
「微力を尽くします」

 ハルバートン大佐の命令に、増援部隊指揮隊長のコープマン大尉が敬礼で返答し、後ろに並ぶ全員もそれに倣う。
 末席に近い場所で、少尉になったばかりのマリュー・ラミアスも緊張で指先を震わせながら、工兵学校時代の恩師に向かって礼を取った。



「まさかマリューまで増援部隊に選ばれるとは思わなかったなぁ」
「酷い!工学知識ならあなたよりもずっと役に立ちますよーだ!」

 着の身着のままの軍人家業をはじめて随分経った。
 工兵学校時代から何故か腐れ縁が続いている二人。成績優秀者の選抜に残り、運良くハルバートン(当時)中佐に目をかけて頂いて、それ以来、二人一緒に可愛がられている。
 彼はモビルアーマー・メビウスを駆り、すでに何度か戦果も上げている。今回は2度目の隊長だ。その表情にも余裕が伺える。
 今回はマリューも工兵部隊の隊長だ。女性で、しかも自分よりも年長の者もいる部隊での隊長、反感も生むかもしれないが、事態はそれを許さない。

「何ため息ついてんの?」
「…あなたは気楽よね。ただ実力を発揮すれば認めてもらえる…私も男のほうが良かったわ」
「えー?やだよ、そんなの。キミはこの艦隊の花だぜぇ!?」
「あなたが独り占めしてたら、意味無いでしょ?」

 マリューは自分がこの男ばかりの軍隊の中で、注目を集めている自覚はある。
 ともすれば孤立しがちな立場なのを、恩師ハルバートンと、このアーマー乗りの彼がいつも支えてくれていた。
 安心して素のままの自分をさらけ出すことのできる人。

「マリューが男だったら昇進早かっただろうねぇ。俺なんかすぐに部下にされちまったかも」
「あなたにとってはラッキーで、私にとっては不運なことに、女なのよね。…少し、不安」

 マリューは目を閉じて、彼に寄りかかる。
 彼はマリューの髪を撫でて、頬に、唇に、軽くキスをする。

「大丈夫だって。マリューはいつも一生懸命だから、すぐに人がついてくるよ」
「そうかしら…そうだといいけれど」
「俺が言ってるのに…。あ、コレ、貸してやる。お守りなんて迷信っぽいけどさ…」

 そう言って、彼が自分の首から何かを外した。
 そのままそれをマリューの首にかける。
 銀細工のロケット。表面には薔薇の模様が彫りこまれている。

「なあに?これ…。あなたが持ってるにしては…昔の彼女から貰ったプレゼントとか?」
「そんなんじゃないよ、女モノだけど」
「ふぅん…開けてもいいの?」
「いいよ」

 そこにあった写真は、少し子供っぽい彼と、おそらく彼の母親。

「…おふくろの形見」
「え…?あ、ダメよ!こんな大切なもの、私が持ってるなんてダメ!」
「いいんだよ。マリューに会う度にロケットにも会えるから。だから、預かっててくれる?」
「…なにが、だから…?」

 マリューが飛びつくように彼にしがみつく。
 その背を彼は優しく優しく、何度も撫でた。

「失くすなよ。コイツがあれば、マリューはどこにいても絶対守られるんだからさ」
「うん…ありがとう。あなたも、必ずロケットに会いに来て」
「会うのはマリューだっての」

 彼の指がマリューの前髪を分けて、額にキスをする。
 優しい気持ちを受けて。
 マリューは本当に幸せだった。

「もう時間ね。私はブリッジへ戻るわ」
「いけね、整備の連中にどやされそうだ。俺も格納庫行くし。じゃあ、またな」

 軽く手を振って、格納庫へ向かうベルトに掴まる彼。
 マリューは戦場へ向かうアーマー乗りを笑顔で見送った。



End



唐突に、マリュさん過去話、大捏造です。
遠慮の無い一度目の恋。

…自分、ネーミングセンス、激しくナッシングなので、彼はナナシさん。
ごめんね。(汗)
ロケットの話、これ以上出ないんなら…と思って。
決行!

2003/09/20 UP


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