さらりと、流されるように言った彼の言葉に頬が熱くなる。そして慌てて周囲を見渡すが、騒がしい食堂の中で誰も聞こえていなかったようでホッとする。
「だからって、もっと場所をわきまえてください、お願いですから」
「イヤだ」
「ムウ…」
「俺、妬いてんの。わかんない?」
つい漏れてしまうため息。
さっきまでのおしゃべりで、妬かれるような話をしただろうか?見当もつかない。
「ただ仕事をしていただけです。誰と一緒、というわけではなくて、解析するのに夢中になってたくらいで…」
「その、夢中になってるマリューが欲しいの。君は知らないだろうけどさ…」
プイっと横を向いて食事の続きを始める彼。フィッシュフライの残り半分を3口で食べて、サラダも上手にすくって食べられてしまう。トレイの上にはもう何も残ってなくて、見事というか綺麗というか。見ているだけでスッキリしてしまう食べっぷり。
「あ、ほら。その顔」
「え?」
さっきまでの不機嫌はどこへやら。彼が私を見る目はとても嬉しそう。けれど、いきなり機嫌がよくなった理由がまだわからない。
「コーヒー貰ってくるけど、マリューもいる?」
「あ、はい。お願いします」
カラッポのトレイを返却口まで運んで、コーヒーの入った紙コップを上部を持って慎重に持ってきてくれる彼をずっと目で追いかけていた。
「はい、コーヒー。…何?」
「…さっきの、妬いてたっていう理由がまだわからないんですけど?」
ニッコリ笑って、彼は私の手を取って甲に口付けた。
「いいよ、もう」
また頬が熱くなる。
慌てて周囲を見渡すと、やっぱり誰も見ていなかったけれど、一瞬静まり返った。
「あの、やっぱり場所をわきまえてください。お願いですから」
さっきと同じ言葉を繰り返すと、彼は今度は声を上げて笑って、それから彼も二度目の同じ言葉。
「イヤ。やっぱり俺は何時でもどこでも君が欲しい」
眠る彼女にそっとキスをする。
疲れているんだろう。デスクに座ったままうたた寝をしている。モニターは省電力モードになってる。いつから?かなり前から?
「こんなところで寝てると、余計に疲れて悪い夢を見るぞ」
耳元で囁くと彼女は小さく身じろぎしたが、また眠りに入ってしまった。
甘えている。
嬉しくなる。
少し強引に彼女の体を引き寄せて抱き上げる。ベッドに寝かせる前に上着だけは脱がせておく。体を横たえて、寝顔を伺う。
よく眠ってる。
そのまま離れようとすると、くい、と引っ張られる。彼女の指が上着の裾に絡まっていた。無意識なのか?
彼女の唇がほんの少し開いて呼吸している。衝動的に湧き上がる欲。
「でも、今は…休ませてやりたい。何もしない…できないから、せめて」
眠る彼女にそっとキスをする。
眠る彼女がしあわせそうに笑った。
格納庫に響いたヒステリックな怒鳴り声に、ムウとマリューが顔を見合わせて笑った。
「なんでいつもそうやって、ひとりで悩んでるんだよ!?」
声の主はカガリ、そして向かい合っているアスランは困り顔。一体何の話をしていたのかは不明だが、アスランに悩みが多いのは周知の事実。
「まあまあ、待ってやれよ、お嬢ちゃん。これくらいの少年は悩むと無口になるモンだぞ?」
つい仲裁すると、アスランはホッとして、カガリは怒りの矛先をムウに変えた。
「だからって、何も言わないでひとりで抱え込むなんて、友達甲斐がなさ過ぎる!」
「わざわざ暗い話して、暗い気持ちに巻き込むのもイヤだとか。大方そういうこったろ?」
アスランが俯いて目を逸らしたのは図星だったようで、その気持ちが解からなかったカガリがさらに憮然とする。
「…私が、暗さに巻き込まれるように見えるか?」
「そうよね。それに話してくれた方が安心だし、アスラン君も気分も晴れるかもしれないしって思うわよね?」
カガリがパッと笑顔を閃かせる。マリューが加勢してくれるんならアスランも気を変えてくれるかもしれない。
「じゃあ、さ。お嬢ちゃんがさっきこの坊主に言ったこと、マリューも俺に言える?」
――― 何でも言ってくれよ!
「あ…言えない、かも?」
「でしょ?それにさぁ、あんまり痛い話だったら…」
「おい、あの、ちょっと…!」
カガリが勝手におしゃべりを始めるムウとマリューを止めていいのか悪いのか迷っているうちに呑まれてしまう。
「そういうワケで、お嬢ちゃん。知りたい気持ちは解からんでも無いが、もっとじっくり時間かけて聞いてやってくれよ」
「アスラン君、それでも女の子は話してくれる方が嬉しいわ。少しは気に留めておいてね」
年長者の訳知り顔に納得がいかないカガリ。アスランはコロリと変わったマリューがよく理解できない。2人の間にさっきまであった険悪な感情は、身勝手な大人2人に流されてしまった。
「なぁ、マリュー。俺たちって年寄りくさいかなぁ?」
「少し、そうかも。…ムウ、あなたも私にだけは何でも言ってください、ね?」
ムウは笑って敬礼を返した。
「失礼します。…お邪魔でなければ、わたくしを隠してくださいませ」
突然ブリッジに入ってきたラクスが茶目っ気たっぷりに微笑む。その様子から仕事ではなく遊びに来たのは一目瞭然なのだが、差し迫った状況でもなし…とつい甘く許してしまう。
「どうかなさったんですか?キラくん達は休憩中ですよ?」
「ええ。ですから今、隠れオニをしてますの。わたくし、初めてなんです!ここにいて見つからなければいいのですが」
手を合わせてはにかむ仕草は少女らしい。重責を負う少女の幼さに触れて、嬉しい半面、胸が痛む。
「あ、お姫さま、みっけ!」
エレベーターの扉が開いて、ムウの声が楽しそうに響く。
「あら?あなたがオニなの?」
「違うよ。俺は見物人その1でオニはキラ。あいつ、まだアスランしか見つけて無いんだぜ?俺は全員見つけちまったけど」
「まあ!ムウさんは隠れオニがお上手なんですね!」
「そりゃもう、なんとなく。生来の勘のよさってヤツだから」
明るく茶化して言えるほど、ムウにとってしあわせな現象ではなかったはずなのに。それでも彼が他人に優しくできるのは、いつでも誰かが彼に優しかったからだろう。
「あの、すみません!もしかしてここに………」
慌ててブリッジに飛び込んできたキラ。仕事中のはずのマリューとムウが思いっきり談笑している光景に目を奪われて、その理由を見つけた。
「ラクス…こんなところにいたの!?」
「あらあら、見つかってしまいましたわね。残念ですわ。わたくしの他は誰が捕まってるんでしょうか?」
「みんな…あとはカガリだけだよ。もう…どこに行っちゃったんだろう…」
キラとラクスが小さな礼を残してブリッジを出て行ってから、問いかけてみる。
「カガリさん、どこに隠れてるんですか?」
「格納庫。ディアッカはバスターのコクピットで速攻見つかるだろうと思ってたけど、お嬢ちゃんはマードックたちと一緒に整備してんの。あれはわかんないだろうね」
ムウも、カガリも、隠れオニが得意そうだ。
「後で、マリューも隠れてみる?」
思いがけない誘い。
「アークエンジェルにはあなたの知らないブロックも結構あるわよ?それに、私も子供の頃は隠れオニが得意だったわ。それでもいいの?」
「いいよ。俺はマリューがどこにいたって見つける自信があるから」
じゃあ後でと言い残して、ムウがCICへ降りていった。
見つけてくださいね。
隠れてますから。
「俺に足りないもの?」
「ええ。休憩時間にチャンドラ君たちが話してるのを聞いちゃったんですけど。何かあなたに足りないものがあれば、自分達下士官で補おう、ですって」
あの下士官組は相変わらずマリューのFCを解散していないらしい。なかなかいい根性だ。
「へぇ〜。で?何が足りないって?」
マリューがちょっと考えてクスクス笑う。
「あえて言うなら、自覚、かしら?」
「なんだよ、それ」
「私がやきもち焼きだってこと、ご存知ですよね?」
「あー、何がバレたんだろう?」
適当に話を誤魔化してみる。本当はバレて困るようなことなんて全く無いけれど。
確かにマリューは平然と笑っていながら、時折自分ひとりで誰にも知られないように自己嫌悪している。そして、俺はわかっていながら放っておいた。
「意地悪だわ」
マリューの腕が肩にかかる。軽く甘い匂いが漂う。
「俺のこと、嫌い?」
「嫌い。大嫌い。そんな余裕タップリなところが。好きなのは私だけなのかしら、なんて考えてしまうわ」
「…こんな大嫌い、聞いたことが無いぜ。嬉しいなぁ」
首筋に絡んだ指を捕まえて大きく上下に手を振る。それから彼女の指先に口付ける。
「俺も、マリューのこと大好き。だから意地悪」
「直してください、その癖」
「うーん…そうだなぁ、君に足りないものって何かわかる?」
「え?…私に?」
また思考の淵に沈んでしまいそうになったマリューを、深めのキスで捕まえた。
君に足りないものも、自覚だよ。
俺のポーカーフェイスもかなり崩れてるって、知ってる?
ミリアリアが目をまるくした。
「なんで…いつもと全然違います。すごく、美味しい」
同じものをマリューもひと口飲んで。
「あら、嬉しいわ。そんな風に言って貰えて」
いつも、この休憩時間にはミリアリアが紅茶を飲んでることを知っていたから、先に休憩室にいたマリューが2杯分の紅茶を淹れていたのだ。クルーにはコーヒー党が多いので普段からサーバーに入ってるのはコーヒーだけで、紅茶は簡単にティーバッグを熱湯に投げ込むだけ。マリューが作った紅茶もただそれだけの手順で淹れたはずなのに、ミリアリアが淹れるものとは味が違うのだ。
「お湯の温度や蒸らす時間をちゃんとすれば美味しくなるんですね。いつもの紅茶が普段着なら、今日の紅茶はドレスみたいです」
まじまじとカップを見つめるミリアリアに、マリューはパタパタと手を振って笑う。
「違うわ、ミリィ。今日の紅茶も普段着だけど、気持ちだけデート前なの」
「気持ちだけ、ですか?」
「そうよ。あなたの喜ぶ顔が見たかったの。私もこの紅茶との付き合いは長いから、少しくらいは上手に淹れられるし。でも、一番は気持ち」
そう言ってマリューが微笑むと、それだけで周りの人の気分が明るくなる。ミリアリアは素直に憧れる。
「イタダキ!」
背後から現れたムウが、マリューがテーブルにカップを置いた瞬間を狙ったようにかっさらう。
「あ、私まだ少ししか飲んでないのに!」
「だって、マリューの紅茶、美味いんだもん」
「…しょうがないわね。それ、飲んでくださいね」
言葉とは裏腹に、嬉しそうにマリューが席を立つ。もう一杯の紅茶を作るために。
代わりにその席に座ったムウに、ミリアリアがうらやましそうにため息をついた。
「…いいですね、ムウさんって。マリューさんみたいな何でもできちゃう人といつも一緒なんだもん」
ムウはチッチッチと指を横に振る。
「何でもできちゃう人じゃないよ、マリューは。どっちかというと、何にもできない方だと思うよ」
「そうですかー?」
「ただ、ね。誰かの笑顔が見たくて、それだけですごい努力ができちゃうの。きっとこれだけが彼女のとりえなんだ」
ムウがもうひと口紅茶を飲んで、「おいし」と呟いた。
戻ってきたマリューにその声が聞こえたのか、とても幸せそうに笑った。
ミリアリアも紅茶を飲もうとしたら、香りが甘く変わったような気がした。
「そういえば言ったこと無いなぁ」
ムウのノンビリとした口調に、話のネタを振ったマードックがギョッとした。アラスカの前あたりから艦長とくっつくだろうとは思っていたし、その後ブリッジで熱烈キスを目撃され、今では時間があれば寄り添ってるような状態。
なら、プロポーズくらいしてるんじゃないかと思っていたのに、それ以前の問題だった。
「おいおい、そりゃマズいんじゃないの?」
バスターからの無線でディアッカも雑談に参加してくる。
「何で?」
「女ってのはつながりたがるんだから。それくらい言ってもいいじゃん。減るもんじゃないし」
「わかったような口を利くねぇ、お前」
「別にいいけどね。おっさんが美人の艦長さんに振られるのを見物するのもさ」
「ガキが生意気なんだよ。それに、減るもんなんだよ。言葉ってのは」
ぷい、と横を向いたムウは、苦笑いでも浮かべているかと思ったら割と真剣な顔色だったので、マードックはつい噴出した。
「意外ですねぇ。もっと軽い人だったハズなのに」
「そりゃ、軽くなきゃここまで生きてこれなかったからだろ?いきなり変わったワケじゃねえよ」
確かにムウはこの艦に来る前から、上官にも部下にもウケがよかった。それは「英雄」だからではない。男の目から見ても、気持ちのいい男だったからだ。
遊びを含めて、女も相当数を墜としてきただろうに。まさかまさか。
「それでも“愛してる”くらいは言ってもいいんじゃないですか?」
「曹長まで言うか…?」
ムウが深くシートに沈んで、大きく息を吐いた。
暫く黙って考え込んで、それからポツリとひと言。
「今じゃなくてもいいんだ」
言ってしまったら、それで最後になるような気がするから。
言わなければ、帰ってから言えると思うから。
「じゃあ、いつになったら、ちゃんと艦長に告白するんですか?」
「そのうち、ね」
「言っとけって。マジで振られるぞ?」
「振られるかよ。坊主じゃあるまいし」
「何を!?」
いつもの喧嘩になり、マードックが豪快に笑い飛ばした。
もしも、帰ってこれなくなっても。
いずれ、誰かがこの気持ちを伝えてくれれば、俺はそれでいい。
第一希望は、青空の下でマリューにだけ聞こえるようにささやくことだが。
愛してる、と。
「アークエンジェルって、そんなに大変そうに見えますか!?」
珍しくマリューが苛立っている。抑えていた感情がムウを前にしてようやく溢れ出たらしい。
「見方によるけどね。他の艦に比べたら大変なんじゃないの?」
落ち込み気味に肩を落とすマリュー。
「エターナルとクサナギのクルーに必ずって程言われるのよ。アークエンジェルは大変そうですけど、頑張ってくださいって」
ああ、とムウはその苛立ちの原因に気付いた。
追い詰められてるなぁ、と。
この艦に搭乗してからというもの連戦連戦で、今や不沈艦とまで呼ばれるようになってしまった。幸運がクローズアップされ、必死の尽力はその影に隠れてしまう。
人員の余裕も全く無い状況で、やっと他2艦と同等に肩を並べられる状態になったのに、まだ頑張れと?
そんな風に言われているのは、今日一日だけではなく、毎度のことなのだ。
見下されているのか、自分が卑屈なのか、マリューの思考はマイナスに傾いていく。
「いいんじゃないの?言わせておいたら」
「だけど、私にはもう…」
「頑張ってる人に、頑張れ、と言うのがプレッシャーなんだろ?」
ムウの指摘にハッと顔を上げると、大きな手のひらがマリューの頭をよしよしと撫でた。
マリューの瞳に涙が溜まる。
それは、わけのわからない悔し涙だった。
「この艦は、乗ってる奴みんなが頑張ってる。なんでか解かってる?」
「頑張らなくちゃ、いけないから」
「ハズレ、違うよ。なんでわからないかなぁ?」
ムウが最初苦笑して、だんだん本気で笑えてくる。
「もう、なんで笑うんですか!?私、本当に落ち込んでたのに!」
「だって、落ち込む理由が違うよ。他の艦の奴らは知らないだろうけど、アークエンジェルのクルーは全員君のことが好きなのにさ」
突然、好きと言われて、マリューの頬が熱くなる。
「…そんな。…私のどこがいいんですか?」
「何しろこの艦で一番頑張ってるから、ね」
ついでに、とムウが耳元で小さく告げる。
「俺も、そんな君が好きだよ」
ムウには、ちょっと幸せな作業がある。
整備、シュミレーション、トレーニング、調整…何も無ければそれで一日が終わる。
ブリーフィングルームを抜けてパイロット用控え室でスーツを着替える。汗と埃をシャワーで流して、それからがお楽しみ。
ヒゲを剃ること。
そんなに伸びることは無いし肌色にも近いし強い毛でもないから、数日不精したところで目立ったりはしないけれど。
さらっと何も無くなった頬を、マリューの頬に触れさせる瞬間が大好きなのだ。
その時を思うと、以前はただ面倒だと思っていたことも、何かちょっと幸せな作業に変わる。
シェービングジェルを頬や顎に塗って、剃刀で肌をなぞると剃り後がヒヤリとする。
それがまたちょっとだけ幸せなのだ。
マリューには、ちょっと幸せな作業がある。
ブリッジで一日を過ごし、たくさんの難題を少しずつ片付けて、何も無ければそれで一日が終わる。
自室である艦長室へ戻り、デスクワークを続けて、端末にデータを打ち込む。書類をまとめ、最後にメモを貼り付けようと引き出しを開けるとき。そこにお楽しみが入っている。
小さなオードトワレの小瓶がステーショナリーの中に隠れている。
引き出しの前のほうへコロンと転がって、中にあるオレンジ色の液体が揺れる。
小瓶を取り出して机の上へ置き、書類をファイルに入れてメモをつけて引き出しにしまう。
何も無くなったデスクの上に、ひとつだけ、綺麗な小瓶。それを眺めているだけでマリューはちょっと幸せなのだ。
ムウがいつも頬を寄せてくるときにわかるように、首筋に小さく甘い香りを落とす。それがマリューの一日の終わりの楽しみな作業。
もうすぐ、彼が部屋に来る時間。
今は、ちょっとだけ幸せ。
その後はもっともっと幸せ。
「リンカネーションって知ってる?」
2人で見つめているのは黒い宇宙、白い粒の星。
この世界の全ては、いつか消えて失くなってしまう。地球、そして自分達はもっと小さな意味の無い存在なのかもしれない。
そして、戦争なんて。軍人なんて。
「前世とか、来世とかですか?今の私が憶えていなければ何の意味もありません、よね?」
「リアリストだよね、結構」
「あなたほどのロマンチストじゃありません」
目の前の生と死に、マリューは恐れを隠し切れない。
何時かは必ず訪れる喪失。その何時かを大きな時間にすりかえて納得しようとしていると、ムウとつながった手だけがこの世界との接点のような気がしてくる。
「遺伝子の記憶が、ね。君を呼んでるんだ」
ムウは黒く輝く宇宙から目をそらさない。
そこに吸い込まれる時にもマリューの手は離さないだろう。
「人は、同じコトを何度も繰り返す。螺旋を描いて、昇っているのか降りているのかはわからないけど。その中で、ずっと昔に残された記憶があるんだ」
「昔の、あなた?」
「に似た人。恐竜かもしれないし、三葉虫かもしれない」
ムウが笑う。マリューも笑う。
「じゃあ、あなたは三葉虫の私と恋をしたのかしら?」
「そう。好きで好きで仕方なくて、一度きりの生じゃ足りなくて、必ず来世で会おうって約束したんだ」
「じゃあ、また好きで好きで仕方ない私たちは、また何時か会えるってことですか?」
「うん。きっとね」
ムウがマリューを引き寄せて、マリューがムウを抱きしめる。
慣性で2人はゆっくりと円を描いて漂う。
「けど、その前に…」
続く言葉は、優しい口付けに蕩けた。
もっともっと、好きになろう。
今、この時を。
そして想いは、永遠への螺旋を描く。
2004/03/05 UP