オルガン
メンデルで拾ってきたアルバムを見るとはなしに眺めていたマリューが、そこに並べられた深刻な雰囲気を飛ばすようにクスクスと笑う。
ムウも、何のことだか解からないけれど、つられて少し笑ってしまう。
「何?何か面白いモンでもあった?」
「ごめんなさい。本当は笑える話ではないのでしょうけど…」
「いいよ。子供の頃のがかわいいとか言ってくれても」
「フフッ。それもありますけど…ムウって…お坊ちゃま育ちだったんですね」
マリューが写真の一枚、立派な調度品の中に使用人らしき人に傅かれている少年に視線を注ぐ。どこから見ても小さなムウで、どこから見ても立派なお坊ちゃまだ。
冗談めかして、ムウがため息をつく。
「今でもちゃんと紳士なのにさ」
「ええ、紳士ですよね。でも、生来のものとは思ってなかったんですもの」
「今は粗雑な軍人だから、品が良くても意味ないし?」
「そんなことないですよ。…ご苦労なさったんですよね?」
「それほどでも」
ムウもアルバムを覗き込むと、写真の中に思い出を見つける。
「あ、オルガンだ」
同じ写真をマリューも覗くが、マリューが知っている形のオルガンらしきものはその中にはなかった。写真の少年がもたれかかっているのは、背丈の半分よりは大きな箱。
「オルガンって、あの、大きい教会なんかにあるパイプがいっぱい出ているモノ…じゃないんですか?」
「それもオルガンだけど…ほら、これ。骨董品なんだってさ」
ムウが指差した先はやはりその箱。本当に古びた木製の、奥行きのないデスクのようなもの。が、鍵盤も無いし、なによりも足元に異様に大きなペダルがある。
「楽器のオルガン…ですよね?」
「あ、そうは見えないか。このシャッター開けると鍵盤が出てくるんだ。それが面白くて開けたり閉めたり、遊んではよく……怒られた」
少し間があった。
誰に、怒られたとはムウは言えなかった。
父なのか、母なのか、それ以外の誰かなのか。
マリューは深く追求しない。
「音、鳴るんですか?骨董品って…大分古いものでしょう?」
「鳴ったよ。足のペダルを踏むんだ。そして空気が送られて、あとはパイプオルガンなんかと仕組みは一緒」
「あ、なるほど。…ムウ、弾けるの?」
「弾けるよ。お坊ちゃまだもん」
少し得意気にムウが笑う。
いとおしそうに、その写真を撫でて。
「火事で無くなっちゃったんだよなぁ。惜しいなぁ。イイモンだったのに」
「設計図…があったら、そのうち私が作ってあげましょうか?」
「え?マリューが作るの?」
「伊達に技術士官だったワケじゃないんですよ?」
ムウが疑うようにニヤニヤしているので、ほんの少しマリューが拗ねる。
「信頼してなーい!」
「そんなことないない!Gを作ったの、マリューだもんな。信頼してるよ」
「ホントに?」
「ホントに。…オルガンも作ってよ。ネットで設計図探そっか」
「ムウも手伝ってね。完成したら、私に1曲弾いてくれる?」
「了解!」
ムウがマリューの手を取って、軽く握る。
「でもさ。弾ける曲は1曲だけなんで、リクエストは無しな」
end
するとはなしに、未来の約束です。
戦後は二人でジャンク屋でもやってください。(笑)
そんな未来もよかろうと。
ムウが弾くオルガンの曲は…なんでしょうね?この話を読んでくださった方の好きな曲ってコトで。
2003/09/20 UP
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