「ムウ!?こんなところで何してるの?」
「おわっ!…あ、やあ、マリュー」
「やあ、じゃありませんっ!すぐに医務室抜け出すんだから」
「心配してくれてんのー?嬉しいなぁ。…、て、いてててて!」
格納庫、整備士たちが丁寧にストライクを修理してゆくのを眺めていたムウ。
肩も腹部の傷も完全には癒えていないというのに、「寝てばっかりで暇だから」と医師の目を盗んでは医務室を抜け出して〜を繰り返し、マリューは半ば本気で捕虜用のロープで括り付けようかと思い始めていた。
とはいえ、行く場所は食堂かブリッジか格納庫か…位しかないので、見過ごしてあげても、と甘くなりがちで。
「とにかく、もうちょっと大人しくできませんか!?」
ムウの耳を引っ張って、居住区へ上がるエレベーターに連れ込む。
慣性移動だからそう痛く無いクセに、大げさに耳を押さえているムウがなんだか可笑しくて…
エレベーターの扉が閉じて、動き出して数秒後。
ガツン!と横からの大きな衝撃。
咄嗟にマリューはムウの右肩を庇おうとして、ムウは動く左腕でマリューの頭部を強く抱きこんだ。
直後、下方向に落ちる感覚とバシッ!と電源が落ちる音。
「くっ!何だ、一体?」
「敵襲!?」
いきなり真っ暗な密室に閉じ込められてしまった。
その後は衝撃どころか物音ひとつ響かない。
最初の驚きが過ぎると、次に聞こえてくるのは互いの呼吸と、マリューにはムウの鼓動の音も。
「…あ、非常ボタンで連絡しなきゃ」
「電源飛んでるから通じる雰囲気じゃなさそうだけど…」
「そう…ね。事故かしら?」
「さぁね。ま、今頃ブリッジが必死で君のこと探してるだろうから、すぐに見つけて貰えるでしょ」
真っ暗闇の無重力空間、上下の感覚も解からない。
なのに…。
「マリューってば全然恐がらないなぁ。ちょっとつまらん」
ちょっとどころか、本当につまらなそうにムウが言うので、マリューは噴出して笑ってしまう。
「そんなこと無いですよ。怪我したところは大丈夫?どこかに打ったりしてない?」
「平気。…ってことは、ちょっとは恐いわけ?」
「…“僕もうあんな大きな暗(やみ)の中だってこわくない。”」
「え?…それ何?」
「あなたと一緒なら、何も恐くないって意味」
ムウの鼓動が少し早くなる。
マリューの頭を抱く腕が少し緩んで、額にキスをする。
互いに少しずつ位置をずらし、互いの唇を捜して、見つけて、口付ける。
優しく優しく、長いキス。
この宇宙に二人だけしかいなくなったような感覚の中で、満たされる感情は…
大きな大きな安心感。
遠くでガランと音が響き、マードックのものであろう声も聞こえる。
「残念、終わりかー」
ムウが唇を離してつぶやくと、すぐに電源が戻る。空調が動き出し明かりが点く。
『艦長、少佐、ココですかー?』
マードックの声が非常ボタン横のスピーカーから響く。
互いを守ろうとした腕を解いて、マリューがボタンを押して応対する。
「ありがとう、マードック曹長。ムウもここにいます。さっきの衝撃はなんだったの?」
『高速で突っ込んできたデブリを避け切れなかったんでさ。…エレベーター、動かしてもいいですかぃ?』
「?…いいですよ?でも、どうしてそんなこと聞くの?」
『密室をイイコトに、二人してエッチなことでもやってたんじゃないですか?』
「「上官侮辱罪!」」
『冗談ですってば』
二人で同時ツッコミ。がはは、とマードックが笑ってエレベーターが居住区に向かって動き出す。
…が、正直、二人はそーゆーコトをしてなくてよかったーと心の奥底で思ってたりしたのは内緒の話。
ムウとマリューとエレベーター
end
途中で挿入した一文は「銀河鉄道の夜」です。
(銀河鉄道の夜はヤバいだろう!?と、ふと思った。マジで。・滝汗)
エレベーターなネタは某所でチャット中に「みんなでやろうよぅ〜」と投下しましたので、
ご近所サマでもっとステキなお話が読めますよー♪
2003/09/10 UP
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