so glad
人の気配がして振り返ると、すぐ後ろにミリアリアが立っていた。
驚いた。
こんなに近くに来るまで気付かないほど、俺は考え込んでいた。
「何?」
「…何、じゃないわよ」
不機嫌に言ってしまうと応じる声も不機嫌。
そこで俺は笑ってしまう。コイツは俺の鏡みたいだな。
「ごめん。ちょっとナーバスになってた」
「どうしたよの?いつもならもっと軽いおしゃべり男が」
「あのなぁ。目の前でザフトの戦艦が堕ちて、なんとも思わない男に見えるのかよ?」
「…辛いんなら、もっと辛そうにしなさいよ」
「辛いさ。でもキラやアスランに比べたら…」
「そういうの、やめたら?誰かと比べるの」
気遣って言ってくれてるのに、つい笑ってしまうから、ミリアリアには不真面目だと思われるんだろうな。
「ヴェサリウスは俺たちの憧れみたいなモンだった。最初に搭乗した時、こんなに美しい艦は無いって思った。それなりに楽しい仲間がいて、軍隊なんかじゃなくて学校みたいで。俺たちは無邪気だった」
ミゲル、オロール、マシュー、ラスティ、ニコル…。
そして、アデス艦長。
皆、俺の仲間だった。
もう、生きて会うことは無い。
「今、あの頃の気安い仲間で残ってるのはイザークだけだな。あとは隊長かぁ」
「隊長って、仮面着けてるって人?」
「そう。俺、あの人が嫌いだった」
「どうして?顔を隠してるから?」
「声が嫌いだった。イヤミでさ。顔隠すのはあまり疑問には思わなかったな。戦傷か何かだろうと思ってたし。あ、でもあの仮面の隊長を慕ってるヤツもいたっけ」
ふと思い出し笑いをしてしまう。
「AD世紀の頃、蘭陵王って人の伝説を知ってるか?」
「らんりょうおう?」
不思議そうにオレを見るミリアリアが可笑しい。
知るわけないか。
「武勇才智に長けた王だったんだけど、あまりの優しげな美貌に威厳が無くて味方が言うことを聞かない。だから、いかめしい仮面を被って戦場に立ったら大勝利って話。その話を調べてきたイザークが俺に踊れだの舞えだの煩くてさ。失礼に当たるからヤダって言ってんのに、イザークはしつこくしつこく…」
思い出すと本気で笑えてくる。
本当に楽しかったあの頃の話。
「その、イザークって人と仲良かったのね」
「直情で面白いヤツさ。デュエルのパイロットだ」
ミリアリアの表情が怖れてこわばる。
そんな変化もなんだか可笑しい。
俺にとってイザークはそんなに怖れる対象じゃない。
「アイツは俺の敵じゃない。敵にはならない。そう信じてる。でも…アイツは今ヴェサリウスを失くして、落ち込んでるだろうな…」
今のイザークには、弱みを見せる仲間もいない。
きっと強がることしかできない。
かといって、今の俺がイザークの前にいても、イライラを増加させるだけだろう。
どうして敵なのだ?と。
「そうやって、他人のことばかり考えてんのね?」
「おまえは?」
「え?」
「俺に何を言いに来たわけ?愚痴聞いてくれる為じゃなかっただろ?」
「…うん」
ミリアリアが俺に話しかけてくるなんて、余程の用件があるに違いない。
普段全然相手にしてくれねぇもんな。
照れを隠すようにぶっきらぼうに。
「キラを助けてくれてありがとう」
「なんだ。そんなことか」
「そんなことって…キラは普通の状態じゃなかったし、連合のMSはものすごく強いし、あなたはパイロットで…その…」
「当たり前だろう?仲間なんだから」
キラを助けに行ったアスラン、その二人を庇えるのは自分しかいない。
なら、当たり前だろ。
命を張っても、守りたい。
キラもアスランも、こいつらも。皆。
「うん。ありがとう」
「…」
「…何?」
「いや、なんでもない。ミリアリアだって、他人のことばっかり考えてんじゃねえぜ」
休憩も終わり。
格納庫でマードックが待ってるだろう。
立ち上がると、頭ひとつ分小さいミリアリアがまだ気遣わしげに俺を見てる。
嬉しいね。正直。
「俺、お前好き」
耳元で、囁いてそのまま食堂を出ようとして。
後ろを振り返ると。
ミリアリアは固まっていた。
面白い女!
End
告ってみました。(笑)
ディアッカ大好き。
おしゃべりっぽいけど、肝心なことをなかなか言わない。
あと10年も経ったら、ムウ兄みたいになれるでしょうか?なってください。(笑)
2003/09/07 UP
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