あれから何度も手に入れては失くしてきた。
届かないその場所。
それでも、あがくことをやめられはしない。
いつかは…。


Little Kitten -4


 外は大変な銃撃戦の跡だった。
 キトンが持っていたデータ、その兵器としての利用価値があまりにも高く、手に入れようと躍起になったヤツと、つぶそうとしたヤツの欲望の果て。
 俺の腕に抱いた小さな亡骸を気にする者は誰もいなかった。
 おそらく脳髄からデータを引きずり出すなんてことも不可能なように、自分で自分を壊してしまったから。
 生きていれば奪われる対象になり、死んでしまえば見向きもされない。

 ここに、キトンを惜しんで泣く人間がどれほどいるのだろう?
 失われたのは頭脳だけじゃない。
 素のままのキトンを惜しむのは、俺だけかもしれない。
 空は、天に抜けてゆくような青空。
 カラカラと笑っているような空に、天気にまで裏切られたようで、悔しかった。

 結局、キトンの家族、親族は一人も現れず、施設の中の共同墓地へ葬られた。
 俺が葬られるときも同じだろう。
 願わくば、看取ってくれる人がいればいいと、そんなことを思いながらキトンに最後の花を手向けた。

 そして、この場所を出る準備を整えて、施設の中の医療施設を訪ねた。
 あの事件から数日…数日経ってなお、癒えない傷を負ったマルキオを見舞う。
 テロリストが撒いた神経ガスにやられた者は多く、彼もまたその一人だった。
 目の上に巻かれた包帯に、旅装の自分が見えないことを幸いに、挨拶だけして去ろうかと思ったが、二言三言、言葉を交わしただけでマルキオに気付かれてしまう。
「僕の眼の代わりになってもらおうと思ってたのに、行っちゃうんだね」
「お前の目の代わりは俺じゃなくてもできるだろ?」
「甘えるなってこと?」
 そういうこと、と返すと、互いに笑ってしまう。
 俺の中にも、マルキオの中にも、互いを哀れむような感情は無かった。
 それは、精一杯のことをやってきたからだろう。
「それで、軍に行くの?大西洋連邦?」
「食いブチが減って楽になるだろ、ここも」
「働き手が減って貧乏になるさ」
「じゃあ、仕送りしてやるよ」
 マルキオはいらないと言いかけて、使わなかったら半分は送れと本気だか冗談だかわからない口調で言った。
「止めないけど、理由は教えてよ」
 真直ぐ俺を向いたマルキオの、黒い目は見えないけれど、おそらく真剣な色をしているに違いない。
「ナチュラルとコーディネイターと、争うことがなくなればいいと。できるかどうかわからない。でも、少しでも力を得たいと思ったからさ」
「ここで戦ってもいいんじゃない?それに、中立国の軍でもいいと思うけど」
「戦うんなら、一番の力を持つところで、一番前に行かなきゃ意味が無い」
「死にに行くの?」
「まさか。そこで生きるの。お前といっしょ。ただ、戦う場所が違うだけ」
 マルキオは判ったという風に手をひらめかせてそこから先を打ち切った。
「じゃあ…。世話になった。ありがとう」
「本気で時々仕送りしてくれ。そしたら、君が生きてることが判るから」
 噴き出して笑って、初めて軍人風に敬礼をして、「了解!」と言った。


 その後。
 軍人になってしまったら、過去を思う余裕も無い日々が続くことになる。
 ただ、教練中にも空を見上げて、その色が青かったら、風が金色に巻いて見えたら、キトンを思い出した。
 ぼんやりとしている俺の肩を新しい仲間達が叩いて尋ねる。「故郷に恋人でも置いてきたのか?」と。
 適当に、そんなもんかな、と俺は笑って答えた。


小さな子猫。
いつか、守る力を手に入れたら。


end




ここまで読んでくださってありがとうございました。

諸々の設定は、すっげー適当です。マルキオさんとか…(苦笑)
ムウとキトン、私の脳内では兄妹以上カップリング未満です。
15歳と5歳、ほのぼのと愛しい存在。
ムウマリュな方には大変申し訳ありましぇん。(汗)
ムウ・ラ・フラガの悲しい過去が書いてみたかったのです。

2003/08/31 UP


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