後悔はしたくない。
 その時々に、良かれと思ったことを精一杯やってきただけなのだから。
 それでも、立ち止まる一瞬がある。

「ストライクを、見せてもらってもいいかしら?」
「え、ああ。構わないよ」

 アークエンジェルへ戻る足を止めて。


 メンテナンスの終わった、今はグレーの機体。
 タラップがコクピットの前まで上がると、ほんの少しだけ、中を覗き込む。
 今なら、私でも『動かせる』だろう。
 外に出て、冷たい胸部に背中をつけてもたれかかる。
 気遣わしげな彼の視線を避けるように、目を閉じる。
 記憶は遡る。
 全ての糸が絡まったあの日。

「ここで、キラくんと会ったの。ヘリオポリスでザフト軍の襲撃を受けて、私はX105と303を守るために必死だった」

 ふと、右腕を押さえる。
 もう痛みは全く無い。
 が、衣服で隠されたその場所には引き攣れた傷痕がまだ消えない。

「そこに民間人の子供が紛れ込んできたの。撃たれて、倒れて、次に気付いた時には、その子供とザフト兵が互いの顔を見合わせていたわ」

 目を開けて、下方に視線を向ける。
 たくさんの資材の影で見えない場所に、確かにいる。

「あの子だったのね」

 彼も下を見遣る。
 キラと同じように少年達を見守っている、その瞳に湛えられているのは優しさ。
 私も、同じ眼をしているかしら。

「君も、あの坊主に殺されかけたってわけか」
「利き腕をやられてなかったら、私が撃ち殺していたわ」

 物騒な軽口に笑う。

「内緒にしてて下さいね。今は敵ではないのですから」

 彼は指先だけの敬礼で応えてくれる。

 後悔はしたくない。
 その時々に、良かれと思ったことを精一杯やってきただけ。
 これまでのことも。
 これからのことも。

 そんなことを考えていると、やっぱり見透かされてしまうのだろうか。
 軽く引き寄せられて、抱かれる。
 言葉は無く、ただ、ぬくもりだけ。
 そう。
 私たちにあるのは、懸命に生きる今。
 その先に、未来が繋がれば、それでいい。

 心地よさにまどろむ前に、今は、自分の足でしっかりと立とう。

「ありがとう。もう大丈夫です」
「艦に戻る?」

 頷くと、笑んで彼は私の先を歩き出す。

 もう、立ち止まらずに。


End



だからなんやねんツッコミはイヤーン。
ちょっと確認してみたくなっただけですねん。

2003/07/08 UP


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