剣の行方

 モルゲンレーテ社地下の演習場で、フリーダムと改修されたストライクの模擬戦が行われた。
 コーディネイターの中でもおそらく天性の才能を持つキラと、地球軍のエースパイロットとして名を馳せてきたムウが駆る2機のMSは、その場で見守る者たちを魅了するように打ち合った。
 が。ひとりだけ、いつまでも憮然としているカガリ。
 模擬戦が終わると、パイロットのロッカールームの前で文句を言える相手を待つ。

「やっぱり私も乗りたかったなー」
 青色の軍服に着替えたキラにドリンクパックを渡しながら残念そうにつぶやく。
「まだ言ってるの?カガリ」
「アストレイならシュミレーターで何度か練習してたんだ」
「で?やっぱ成績よかったのか?」
 カガリの真上から全く疲労を感じさせない声が降ってくる。
「あ、フラガ!そりゃ良いに決まってるだろ。でもみんなホンモノは乗せてくれなくてさぁ」
「懲りないお嬢ちゃんだなぁ」
 苦笑混じりに応えて、ムウもドリンクに口をつける。
「うるさいっ!乗れるパイロットを遊ばせておくのは勿体無いじゃないか」
「迷子になったのに?」
「あれは…たまたまだ!」
「すごい言い訳…」
 キラも呆れを通り越してクスッと笑う。
「強運ってのは認めるがな」
 ムウの蒼い視線がカガリの琥珀色の瞳を捕らえる。ふざけた口調とは違う鋭さに、カガリは目を逸らすことができない。
「それよりも、お嬢ちゃんがやれることは何もMSに乗ることだけじゃないだろう?」
 俺にはこれしかないけど、と小さくつぶやくと、ムウの視線は強化ガラスの先、ストライクへと向けられる。
「アスハ代表が言ったこと、キラが望むこと、正直甘ったるい夢だと思うさ。ただそれを現実に近づける為の『剣』があるのなら、俺だって夢を見てみたい」
 夢を叶えるための。
 ストライクは今、静かに休息している。間もなく訪れる砲火の時を待っている。
「お嬢ちゃんには『剣』が無くても戦える。違うか?」
「『剣』が無くても…」
 カガリが為すべきこと。
 方法は違っても、必ず手に入れようと、皆が願う夢。

「だから、ストライクは俺に譲れって」
 ムウが考え込もうとしていたカガリの頭をクシャッと撫でる。
「なんだか、…丸め込まれたような気がする」
「丸め込んだのさ」
 悪戯が成功した子供のようにムウが笑って、歩き出す。
 戻るべき艦へ。
 おちょくられたカガリは悔しさを顕にしてキラに掴みかかる。やつあたりだ。
「やっぱり私も乗りたい!!キラ、私とも模擬戦しろよ!」
「…ええええ!?ま、また今度ね。僕もアークエンジェルに戻ろうっと。待ってください、少佐!…じゃなくて、なんて呼べばいいんだろ?」
 二人も、ムウを追って走り出した。


end



仲良し。3きょうだい。(笑)

2003/06/25 UP


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