anxious
「パナマ…ですね、きっと」
誰もいなくなった部屋で、残ってるのはムウとマリューだけ。
物思いに沈み込んでいたムウを引き戻したのは、マリューの少し悲しそうな笑顔。
「近々ザフト軍の総攻撃があるという噂ですから…優秀なパイロットをアラスカに残しておいても意味は無いですもの」
「…ラミアス、少佐」
表情を改めて、東洋風の礼をするマリュー。
「今まで、艦を守ってくださってありがとうございました。本当に感謝して…」
下がる頭をムウが慌てて止める。
「ちょっと待ってくれ。話がある。とにかくアークエンジェルに戻る。それから話す」
「ここでは話せないんですか?」
「ここは監視されてる。まあ、利権ばっかり気にして人の命なんてクソほどにも思ってない連中に聞かせるのが勿体無い話なんだよ」
わざと大きな声で、天井に設置されている通常は記録用に使われるカメラに向かって話す。
それが現在作動しているかどうかは不明なのだが。
「フラガ少佐!?…ホントに監視されてたらどうするんですか?」
「構わないさ。営倉でも降格でも好きにしろってんだ」
嫌悪感を露にするムウに、ついマリューは苦笑う。
「…査問会の間中、そんな顔をしてたんですね」
「君だって。悔しかっただろう?」
「ええ。でも、今のあなたを見たら…どうでもよくなりました」
思いはその場にいたアークエンジェルクルー全員が同じだった。
マリューはそれが解かっただけでも、納得はできなくても満足ではあった。
これ以上ここで話すのは止そうと互いに口を噤んで、先に戻ったクルーを追って2人も艦に戻る。
+ + + + +
マリューの私室、アークエンジェルの艦長室へ戻ってきても、ムウの表情は険しいまま。
その表情は査問会への嫌悪ではなく、もっと不安の色が強かった。
じっと、話し始めるのを待っていたマリューに、俯いたままムウがぽつりと言う。
「いやな予感がする」
あの…総毛立つような感覚がある。
ここはアラスカの大西洋連邦本部で、そんなことはありえないはずなのに。
ムウが顔を上げると、不審そうに彼を見守るマリューの視線とつぶかる。
「パナマ基地にザフトの大規模侵攻があるという噂…」
「疑ってらっしゃるんですか?」
「オーブでも聞いたよな、その噂。信憑性はあるのだろうが…」
地球軍の唯一の宇宙港、パナマ。
ザフトはそこを押さえてしまいたい。だから大規模侵攻がある。情勢もそんな風に動いている。
でも、何か違う。
その感覚を上手く説明できそうになくて、ムウは頭を振る。
「すまない。確証も無い話だ。ただの勘で…、外れるにこしたことは無い。だが…」
きっと外れない。ムウの中の何かがそう告げているのに、それを言うのをためらった。
「わかりました、心に留めておきます。大丈夫ですよ、アラスカとこの艦は私が守りますから」
ムウの不安を振り払おうと、マリューは精一杯の笑顔を作る。
「フラガ少佐こそ、パナマに侵攻があればそこが最前線です」
砲撃の炎と、着弾の破壊と、閃光に弄ばれる命。
おそらく想像を絶するような修羅場となるだろう。
「…生きて、くださいね」
マリューの中に最前線を外されたことの安堵と不安が芽生える。
そしてどちらの思いも消そうとする。
「私は、少しホッとしています。戦いに行くあなたを見送ることが無くなるんですから」
「俺は…不安で仕方ない。違うと思い込もうとすればするほど」
「少佐…!…」
ムウがいきなりマリューを強く抱き寄せる。
愛しいさとか、寂しいとか、そんな抱き方ではなくて、自身を刻み込むような強さで抱きしめる。
「必ず戻る。だから、だからそれまで…」
「わかりました」
あまりに沈痛な様子のムウに、どちらが最前線行きなのかと、マリューが苦笑を洩らす。
「…心配しないで」
子をあやす母親のように、ムウの背を、髪を優しく撫でるマリュー。やがて愛おしさが増す。
「大丈夫ですから、私は。あなたこそ、あなたこそ…」
後はもう、言葉も無く。
ただ、2人、きつく抱き合っていた。
End
ええええ?終わりっすか?ちゅうとか無いの!?
…無いんです。ごめんなさい。(笑)
2003/05/28 UP
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