「あんただって憎いんでしょ!?こいつが…、トールを殺したコーディネイターが!」
俺を殺し損ねた赤髪の女が、半狂乱になって叫んでる。
「違う、違うわ…」
ミリィと呼ばれた女が小さな声で否定して、力を失って崩れ落ちてゆく。
この女…本当に俺を殺そうとしたんじゃなくて。
ただ、許せなかったんだと解かった。
Red bird to cry
やっと捕虜らしく檻つきの部屋に入れられる。
拘束用のロープが無くなって自由に手が使えるようになった。
腕に痣が残ってる。
さっき、医務室のベッドから落ちた時に吊られたからだろう。
何もすることが無い。ということは、考えることしかできない。
さっきの女の彼氏、そいつがストライクに乗ってたのか?それとも別の?
俺が…バスターが落とされた時、返り討ちに…ならなかったよな。あの戦闘機は違う。
なんにしろ、あの時なら。
イザークか、アスランか。
…同じだな。仲間がやったことは、俺がやったのも同然だ。
あいつらは無事だろうか。
傷が痛む。
酷いことを言った。言ってしまった。
「ビンゴだったとはな」
彼氏が死んだ…か。
ただ時間が過ぎる。
人の気配に視線を向けると、あの女。
目が合うと、怯えたように逃げようとする。
「待てよ!」
止まった、止まってくれた。でも思わず目をそらしてしまう。
「その、お前の彼氏…その、どこで…」
「スカイグラスパーに乗ってたの…戦闘機。青と、白の…」
寂しそうにぽつりと話す女。
俺の中のどこかが脱力する。違った。良かった。
「俺じゃない」
俺が殺したんじゃない。
そんなこと、関係ないか。俺はコーディネイターなんだし。
「どうしたんだよ。殺しにきたんならやれば?」
狡猾だよな、俺は。この女にはできないのに。
「ねえ、どうして…あんたは生きてるの?」
落ち着いた声。
「死ねないと思ったからだ」
殺せと言っておきながら。矛盾してるな。
そうだ、俺はまだ死ねないんだ。
「仲間が死んだ。この間、ストライクに落とされた」
女が何かを思い出したように、ビクリと動く。
そうか、あの時の2機目の戦闘機が彼氏だったのか。
「し、死んだ仲間って…」
ニコル。
「俺たちの仲間の中では一番幼くて、実際未熟なヤツだった。
戦場にいても敵に情けをかけるような、甘い…甘かったんだよ。アイツは。結局、他の仲間を庇って死んだ」
ニコルはアスランを庇って死んだ。
助けに行けなかった俺も、イザークも、同じだ。辛いのは同じだ。
あんなに激したアスランを見たのは初めてだった。
人前で泣いたイザークを見たのも初めてだった。
「死んだら終わりだ。俺は、仲間を泣かせるようなことはしないって、その時決めたから」
全部終わらせるつもりで、この艦を落とそうとした。
結果はこうだが。
「でも、いいんだぜ。お前に殺されるんなら」
それで、気がすむんなら。
「私…トールに、生きてて欲しかった」
女の手が涙を拭う形に動く。
また、泣いてる。泣いてばっかりだな、この女は。
「トールのことが好きで、大好きで、なのに!もうどこにもいないの、トールがいないの!」
しゃくりあげながら、叫ぶように言う。
「ごめんな」
「どうして?あなたが謝るの?」
謝らせろよ。代わりでも何でも。
「じゃあ言い方を変える。酷い男だな、その彼氏。おまえがそんなに泣いてるのに、慰めてやらないなんて」
「そんな、そんなことないわ!トールは、トールは…」
少し怒った声。
その方がいい。悲しみよりも、怒りの方が生きている感じがする。
「だから、ごめん。俺がその彼氏みたいに慰めてやれなくてさ」
後ろを向いたまま泣いて、立ち尽くす女。
この檻がなければ、抱きしめてやりたいのに。
そんなことは許されないのだろうが…。
End
ひぇぇぇ。衝動的にディアミリ…。ぜんぜんラブくない。(滝汗)
タイトルは川澄歌織/岩垂徳行「Ingmar」の「白鳥」、赤い鳥が叫ぶ。
2003/05/24 UP
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