Lemon


「お疲れ様です、マードック曹長。2号機の調整はどうですか?」
「こりゃお疲れさんです、ラミアス少佐!今、フラガ少佐が2回目のテスト飛行に行きましたから、もう2分ほどで帰ってくるんじゃないですかねぇ」

 カタパルトの向こうには、抜けるような青空。
 熱帯特有の猛烈な湿気と高温に、格納庫にいる全員が汗だくになっている。

「持ってきましたよ、みんなの分のドリンク!」
「おう、パシリご苦労さん、坊主!」
「キラくんも整備の手伝いをしていたの?お疲れ様」
「いえ、僕はあまり役に立ってなくて…。ここに置いてますから!」

 格納庫の隅に、脱いだ軍服やタオル…私物がゴチャゴチャと並んでる場所に、キラが手一杯のボトルドリンクを置くと、数人の整備クルーが軽く礼を言いつつそれを持っていく。

「あ、艦長もどうぞ。ここ暑いですから…」
「ありがとう、いただくわ」

 マリューが1本のボトルを手にした時、カタパルトに警告音が響く。
 直後に轟音を上げてスカイグラスパー2号機が滑り込んでくる。
 着艦位置に数センチの狂いも無く停止するその技術に、見惚れているのはマリューだけではなく、一斉に機体に群がる整備クルー達も同じだろう。
 コクピットのシールドが跳ね上がり、パイロットのムウがヘルメットを外して降りてくる。

「どうですかぃ少佐?不具合解かりましたか?」
「ああ、第四エンジンの出力が安定する直前で軽く振動するってコトは、7番目のシフト弁あたりかなぁ?リチェック頼む、曹長」
「了解!10分で終わらせますんで、もう一度飛ばしてくださいよ」

 ムウがパイロットスーツの上部を軽くはだけて格納庫の隅に視線を向けると、ヒラヒラと手を振るキラとマリューの姿を見つける。

「お帰りなさい、少佐!」
「よう、坊主!OSのチェックは完了だ。サンキュー!艦長殿は?休憩?」
「ええ、ここはいつも活気がありますね」
「ははっ!こんなとこに来てちゃぁ休憩になんないでしょ?…あっちぃー」
 ムウは冷蔵ロッカーから冷えたタオルを出して、汗を拭う。
「…すごい汗ですね。水分も補給してくださいね」
「艦長の笑顔だけで俺には十分補給になるけどさ…って…あれ?」
 水分補給、でキラとマリューも思い出したようにドリンクを飲む。
「あら…?こんなの、あったかしら?」
「あれぇ?どこ行ったんだぁ?」
 ボトルを見つめるマリューと、何かを探してるムウ。
 キラは不思議そうにそんな2人を交互に見て。
「…どうしたんですか?」
「すっごく美味しいの、このドリンク!こんなのこの艦にあったかしら?」
 言って、また嬉しそうにそれを飲むマリュー。
「それ、俺が作ったヤツ…」
 ムウの言葉に、しばしの沈黙。
「す、すみません!どうしましょう…大分飲んでしまいました」
 うろたえるマリューに、最初は苦笑で、その後肩を揺らして必死に笑いをこらえるムウ。
「ごめんなさい、栓が開いてるのを気にしなくて…」
「あははは!もういい、あげるよ。美味しいって言ってくれたから!」
「作ってお返しします!ああ、でも、材料あるかしら…」

「フラガ少佐ぁ!2号機のリチェック終了しましたぜっ!」
「りょーかいっ!」
 ムウは笑いながらそこら辺に転がってるドリンクを一本飲み干す。
 カタパルトに向かう足を一瞬止めて。

「艦長!」

 小さなレモンが綺麗な放物線を描いてマリューの手に納まる。


 スカイグラスパーが光の軌跡を残して空を突き抜けてゆく。
 手の中のレモンの香りを吸い込んでいるマリューに隣のキラが問う。

「さっきのドリンク、レモネードだったんですね?」
「そうよ。…ええと、ハチミツ…食堂のどこにあったかしら?」
 ふと、思い出したようにキラがクスクスと笑い出す。
「どうしたの、キラくん?」
「だって…さっきのドリンク、フラガ少佐と間接キスですよ?」

 次の瞬間、キラはマリューに勢いよく後頭部を叩かれた。



End


「鷹×艦長同盟」サマに投稿させて頂きました。
[転載]

恋人未満の間接チュウはレモンのお味ってコトで。(汗)

2003/04/20 UP


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