(カガリを探しにいこうとするキラにムウが休めと言った後、勝手創作)
「おい、ボーズの部屋はそっちじゃないだろう?」
「…そうなんですけど…ちょっと」
「あ、そーか。女の子が住み着いてるんだっけ?」
バツの悪そうなキラの表情に、やっと日常のペースが戻るムウ。
「こっち来い」
「え?」
「オレの部屋を貸してやる」
「でも、それじゃあ少佐が」
「オレはこれからブリッジと交代だ」
放り込まれたムウの私室は、かなり雑然としてる。
無機質な戦艦なのに生活臭があって、キラをホッとさせる。
雑多な机の上を見渡す。
インスタントコーヒー、カップ、グラビア雑誌、ファイルのようなもの・・・
そして、小さなビン。
ふと興味が湧いてふたを開けると、ちいさな錠剤がポロポロとこぼれ、甘い匂いが漂う。
「これは…」
コツコツと小さなノック。
「あ、はい」
キラの返事の後、プシュっと扉が開いて。
「なんだ、まだ休んでなかったのか」
ムウが困ったように笑って、忘れ物〜とつぶやきながら分厚いファイルを掴んで出て行こうとする。
「あの、少佐」
「ん、何だ?」
「これはいったい何ですか?」
キラが小ビンをかざす。
「…戦闘薬って知ってるか?」
眠気が飛んで、視聴覚が鋭敏になる。神経が高揚する。
薬と言いながら、正体はきつい麻薬だ。
常用すれば効果が切れたときに禁断症状を起こす。精神崩壊もある。
「そいつを使ったのは一度だけだ」
ムウの瞳にさっきに厳しい色が一瞬甦る。
「…もう誰も、オレの前で死なせたくない」
キラの手から小ビンを掠め取って、再び机の上へ戻す。
そして、今度はキラを軽くベッドの上へ突き飛ばす。
「ボーズ。同じ思いがお前にあるのなら、今は休め。朝にはまた捜索だぞ」
ムウが出て行った後。
キラは毛布に包まったまま、薄暗い照明に鈍く光る小ビンを視線の先に探す。
少佐は何故、あんな薬をいつまでも手元に置いておくんだろう?
忘れないため?忘れるため?
それとも…
考えが逡巡しているうちに、キラは眠りに落ちていった。
2003/03/18 UP
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