Twinkle Night



「こんな時間に何をしているんだ?」
 食堂から出て宿舎に戻ろうとすると、エヴァンが一人で空を見上げてぼんやりしている。
「ルティナこそ。いつもこんな遅くに食事摂ってたのか?」
「いけないか?」
「いや、別に。そうだな、ジェイドもまだブランドルと酒飲んでケンカしてんだろ?」
「ああ」
 結局、何をしているかの返事は無い。

 そのまま部屋に戻ろうかと思った時。
「…ルティナも来るか?」
「え?」
「いいもん見せてやるよ」
 そう言って、宿舎から漏れる薄明かりで手招きしてるのが見える。
「ちょ、ちょっと待て!そっちは真っ暗で何も見えない」
「ああ、まだ目が慣れないか」
 近づいて、私の手を取って引いて歩き出す。

 どこに向かうのか?

 川の水の音がして、足の踏む道の音が変わって橋を越える。
「こっち」
「おまえは見えてるのか?」
「ああ。だいたいな。…このあたりかな?」
 広場に連れてこられたらしい。
「で?何が見えるんだ?」
「上、見てみろよ」
「上?…星か?」
「うん」

 星空が、ただ、しんと広がっている。

「…それだけ?」
「黙って見てろって」
 ようやく暗闇に目が慣れてくると、見える星の数が増えてくる。
 白いすじが天空を貫いて見える。
 天の川?本当に見えるもんなんだな…。

 視界を大きく白い光が一閃する。
「あ!」
「おっ!今のすごかったな!」
「今のは、流れ星!?」
「初めて見たのか。いいだろ!」
 また夜空に静寂が戻る。
 私は次の流れ星を期待して待っている…。

「あ、また流れた!」
「こっちにも同時に短いのが飛んだぜ!見えたか?」
「…エヴァン、どっちを見てるんだ?」
「東側の黄色い星あたり」
「私もそっちを見る」
「なんで?」
「悔しいから」

 その後、何度も星が流れて、私は何度も声を上げてそれを眺めた。

 今は…。
 正直嬉しい気分だけど…。
「なあ…こんなことをしている暇は無いだろう?」
「え?なんでさ?」
「明日にはまたクロイツを追って遺跡へ行かなきゃならないのに、こんなところで星なんて…」
「ははっ確かにそうだけどさ。だからってコレを見逃すのも惜しいだろ?」
気楽だな、そう言いかけて。
「それにさ…」
エヴァンの声は笑ってはいない。
「おれは、こんな何も見えないほどの闇の中で、宙に吸い込まれそうなほどの星を見てると、圧倒される。
 自分の小ささを思い知る。同時に、おれは今、宙の一部なんだなって思うんだ。
 …なんでもできるような気がして…さ。
 現実じゃあ、そんなうまくいかないことばっかだけど。ごめん、変な話してるな」
「いや、いい」
 これは、エヴァンの、明日へ繋がる為の必要な儀式なんだ。

「…きれいだな」

 星空も、流れ星も、みんなが繋がっている。
 確かにそんな気がしてくる。

 光の小石が、空を転がり落ちて、消えた。

「そろそろ戻るか。寒くなってきたし」
「ああ」

 エヴァンがまた私の手を引いて、灯りの消えた宿舎へ連れていってくれる。
 本当はもう私も暗闇に目が慣れていて普通に歩けたんだけど、手のぬくもりが嬉しかったから、そのまま一緒に歩いた。
 皆が寝静まった宿舎の階段まで戻って、ようやく手を離す。
 エヴァンは照れたように頭を掻いて。
「サンキュ。付き合ってくれて」
「こっちこそ」
 階段を半分上がって、私を見送るエヴァンに軽く手を振って。

「いいもの、見せてもらった。ありがとう」


Good night, and good dreams for you tonight…




2002.11.29






今年のしし座流星群は不発だったそうで。
大好きなネタです。星ネタ。
好きにやっちまいました。
ああ、普通、流星ってヤツは1秒未満で消えてしまうので、願い事など殆どできましぇん。
タイトルはTMNetworkですが、歌とリンクしてません。なんだそりゃ…。

願わくば〜この後くらいにルティナ嬢が「流星剣」習得しれ。(笑)


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