お菓子をくれなきゃイタズラするぞ!
「あれ、珍しい。電気ついてないね?」
「誰も来てないのか」
塾の教室は秋の日暮れを追いかけて、隅々が暗闇の中に沈みかけている。
とにかく明かり、と亘が手探りで壁のスイッチに触れようとすると、
「え…、うわあああ!!何!?何なになに!?」
「どうした、亘!?」
「今、何かが手に触った!」
いきなり掴まれそうになって、思いっきり壁際まで退く亘。驚きが心臓を鷲掴みにしている。
足を震わせてる亘を庇って、美鶴は暗闇をにらみつけた。
『Trick or treat?』
美鶴がカバンを闇に向かって投げつけた。
「わわわっ!そんな怒るなよ!」
「宮原!お前なにやってんだ!」
「宮原!?宮原なの??」
パチン、スイッチが入って部屋が蛍光灯の明かりで満ちると、真っ黒な魔法使いの衣装から顔を覗かせていた宮原が、暑そうに三角帽子を脱いだ。
「あっはっは。三谷の驚きっぷりは噂どおりだなぁ」
6年生に英語を教えている講師はこういった行事が大好きで、下級生のクラスにもよく遊びをもたらしてくれる。
去年のハロウィンの日、亘がその講師のイタズラに腰を抜かすほど脅かされたのは、塾の中でも限られた情報…だったのに。
「酷い!何で今年は宮原がそれやってんの?」
「早く来たら先生に脅かし役頼まれた。ついでに、はい」
お菓子といっしょに差し出されたのは、真っ黒な衣装。魔法使いのもの。
「丁度3人分。お前らも脅かし役」
不平を言おうとした美鶴をよそに、亘はふん、と鼻をならして大き目のマントを羽織った。
「今年こそ、脅かし役!美鶴も早く着て!」
しぶしぶマントを羽織ると、亘の表情が僅かに輝いた。
「美鶴、似合いすぎ」
「電気けしまーす」
宮原が言って、また教室は暗闇に。
3人の魔法使いが、壁際で息を潜めた。
女の子達のきゃあきゃあ騒ぐ声が近づいてくる・・・。
しまい。
2006.10.31迄、フリー配布SSです。
文章そのままお持ち帰りするなり、おえかきのネタにするなり、お好きにどうぞ。
(ハロウィン以降、さっくり消えます)
2006.10.22
written by Chororin
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