・・・ ・・・ カタン カタン カタン ・・・

遠く、線路を鳴らす音を風が運んでくる。
静かだけど、静か過ぎなくて。
世界は日常のままなのに、どうして…。
こんな、喪失が。



089.
寄り道



・・・ はっ

橘さんが息を吸う。堪えきれずに漏れる嗚咽。
僅かに震える肩。
すっかり事切れてしまった人の手をきつく握りしめて。
その人のすべてを、心に刻み付けて。


   俺も なりたかった 仮面 ライダーに


最後の言葉は俺の胸にも突き刺さる。
力無くしても正義を愛そうとして心を歪めてしまったこの人を、責めることなどできない。

守るべき正義があるのなら、迷うな。

最期の願いは決して忘れない。


きし・・・

革のグローブがこすれる音。橘さんの手が、離れる。
静かに。でも振り切るような動作で立ち上がる。
橘さんが何かつぶやいたが、俺の耳にははっきりとは聞こえなかった。
でも、多分、さよなら、って言った。
外は眩しいほどの光が溢れていて、逆光の中を立ち去ろうとする橘さんは、夢から現実へ戻る人みたいだと思った。

桐生さんは、笑ってるみたいだった。


何も言わない橘さんの後を追って歩く。
真っ白な日差しは翳る様子も無く、今、生きている俺達を照らす。
まっすぐにバイクを放置していたところまで戻る。時間が経つのが、とても早く感じた。
俺に背を向けたままの橘さんは、メットを被る前に手の甲で頬を拭った。
何も言わない。
俺がそばに居るのも、気付いてるのに、何も言わない。



レッドランバスに乗ってそのまま走り出した橘さんを、俺はまだ追いかける。
ひとりにさせたくない。
けど、一度くらい振り返らせて、ついてくるなと言わせたい。


市街地を通って、都心を抜けて、工場地帯から海岸線へ。
ブルースペイダーを突き放すでもなく、ゆっくりと走るレッドランパス。
橘さんは、何を考えているんだろうか。
桐生さんのことを思い出しているんだろうか。
それとも。

何も考えていないような走りだな、とも思う。


かなりの距離を走って、BOARDがあった場所に近い峠道へ差し掛かる。
日が傾いて、夕闇の頃になってようやく橘さんが止まった。
すぐ後ろを走っていた俺は、レッドランバスのスローダウンするペースを追い越して、ほんの少し抜いて止まった。
メットを脱いで振り返ると、先に止まった橘さんが俺のほうへ歩いてきていた。

「剣崎」
「・・・はい」
「ブルースペイダーの前輪空気圧チェック。それから、オイルももうちょっとイイやつ入れてやれ」
「・・・は?」
「バカ。俺のことばっかり考えて走りやがって」

心配してるつもりだったのに、こんなこと注意されてしまうなんて。
恥ずかしくなって、下を向いて、すいませんと言おうとした口をパクパクさせてしまった。

橘さんはブルースペイダーにもたれて、後ろを向いてしまった。
何を言えばいいのか解らなかったけど、こんな風にそばに来てくれるのなら、何も言葉は要らないのかもしれない。
ふと、後ろを向いたままの橘さんの視線を追ってみる。

「うわ・・・!綺麗だー!」

紫色の暗い霞みの向こうに、光の海が広がっていた。
沢山の人たちが生きている、都会の灯り。

「こんな場所があったなんて、今まで知りませんでした」
「俺も、桐生さんに教えて貰うまで、知らなかった」
「・・・え・・・っと、あの、すみません」
「謝るな」

橘さんが小さく苦笑した。

「もう、逃げないから」
「橘さん?」
「大切なものを守るために」

橘さんの大切なもの。
小夜子さんも桐生さんもいなくなってしまったこの世界。
・・・違う。
失くしても、それはいつまでも心にあるんだ。

「一緒に戦ってくれるか、剣崎」

たった一人の同朋。

「はい」


闇が深くなっても。
絶望が世界を満たそうとしても。
戦います。
俺も、あなたと一緒に。



end



うーん。詰め込みすぎた?
ダラダラだなぁ。ごめんなさい。
けんたちならさいごにちゅーくらいいっときたいイキオイですが、一応ココはノーマルなので保留〜〜(笑)

どこがどう「寄り道」ってタイトル?(汗)

2004.08.28


--- ブラウザ・BACKでお戻りください。 ---