085.
帰る場所



Side. Murrue Ramius

「あいつら、もし脱出してたら!カガリだって探しに行かなきゃ見つからなかったじゃねーか!?」
「解ります!私だって、できることなら今すぐ助けに飛んで行きたい!見つけ出して、抱きしめてあげたいわ!
でも…それはできないんです!」
 彼らを置いて行くように、指示してしまったのは私。
 年端もゆかない子供を犠牲にして、逃げだしたのは私。
 ブリッジを出て行った少女と、時折見かける赤い髪の少女に、こんな思いをさせたくなかったのに!
 あの人を失った時と同じ…あんな思いは、もう二度と…。
「今の状況で、少佐を一機で出すようなこともできません!それで、あなたまで戻ってこなかったら、私は!…ぁ…」
 私は…あの人と…重ねてる…。
 行かないで。
 一人にしないで。
 …少女たちに、辛い思いをさせておいて、なんて自分はずるくて卑怯で、嫌な女なのだろう…。
「今は、オーブと、キラくんたちを信じて留まってください」
 もう、彼の目を見ることができない。
 滲んでくる涙をこぼさないように俯くと、暖かくて大きな手が私の肩に。
 お願い、もう、やさしくしないで。
 止められない。
 止められなくなってしまう。



Side. Mwu La Fllaga

「了解、艦長」
 あの時、泣き崩れる少女に差し伸べる手も無くて。
 助けに行くこともできず、守ることもできず、ただ一人だけが生き残る。
 いつもそんな自分に嫌気が差しながら生きていて。
 行くな、と涙を浮かべる彼女は、あまりにも優しすぎて。
 行き場の無い思い…この手を預けることができるのは、同じ思いを抱える彼女だけ。
「ひとつだけ」
 昏い思考がよぎり、つい、口にする。
 きっと彼女を傷つけるのに。それでも言ってしまう。
「もし、艦が危険な状況ですぐに逃げ出さなきゃならないとき、俺が戻れなかったら。
…同じように置いて逃げるって、約束して」
「少佐!…私は…そんな例え話は、イヤです」
 手を置いた肩が小さく震える。
 少し身体を屈めて彼女の顔を覗き込むと、怒ったように涙をいっぱいに浮かべた目をそらす。
 もう、泣かないで欲しい。
 精一杯の明るい声で、次の言葉を続ける。
「信じて、待っててくれるんだろう?必ず帰ってくると」
「必ず…帰る?」
「ああ」
 返事を待っていると、ほんの少しだけ、目を合わせて、小さく頷いてくれる。
「…半舷休息だろ?休みに行ってこいよ。俺も、休むから」
「はい」
 肩をもう一度軽く叩いて、艦内へ続く通路へ送り出す。
「止めてくれて、ありがとう」
 後ろを向いて歩き出した彼女へ掛けられたのは、あまり気の利いた言葉じゃなかったけど。

 君が俺の帰る場所。
 この思いが君を強くするのなら、俺は必ず君の元へ帰ろう。



end



PHASE-31の告白シーンより♪(ウキウキしちゃう!)
誰もが書いてしまうだろう〜と解っていながら書きました。
相変わらずの意気地なし加減でちゅうも無しかよ!?>自分
いろんな良い予感、悪い予感を含みつつ。

2003.05.13


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