083.
幻想の草原



 展望デッキの外、真空の宙に失くしたものを探す。
 もう肉眼では見つけられないほど遠ざかった草原を見送る。
 太陽光を受けて、チラチラと輝く残骸は、かつて遊んだ川の流れにも似て。

 流れていってしまった幸せな時間。
 もう、取り戻せない大切なものたち。
 永遠に忘れないように。

 ふと、後ろに気配を感じて振り返ると。

「うわっ!失礼。どこか行くよ」
 低重力のデッキの入り口でフラガ大尉がクルリと背をむける。
 この人でも慌てることがあるのね、なんて思うと少しだけ気分が浮上する。
「構いませんよ、こちらでご休憩なさりたいのでしょう?」
「あー、でも…」
 でも?なんだろう。
「ラミアス大尉、泣いてたんだろう?」
「泣いてませんよ」
「涙が出てないだけだろう?」

 内心、この人には敵わないなと感じつつ、精一杯の笑顔で応じて。
「そんなこと無いです。大丈夫です、私は」
 フラガ大尉は困ったように笑って、私のそばまでふわりと漂ってきて。
 指が、私の胸を指す。
 そこは、あのペンダントがある場所。
 息が止まる。

「泣けばいいのに」

 そんなに優しく言わないでください。

「泣けません」
「泣いてもいいよ」
「でも、私にはそんな…」
「あそこは悲しい場所で…君にとっても悲しい場所だってことは解かるから。
 愛しい場所だってことも解かるから。だから、今くらい泣いてもいいんだ」

 ふわりと、大尉の腕が私を包む。
 柔らかな体温を感じて、私の意識は一瞬、遠い時間の彼方に飛ぶ。
「だめです…やめてください、フラガ大尉」
「うん」
 生返事。
 胸を叩いても放してくれない。

 ずっと前にも、こんな風に抱かれて…。

「だめです…私はずるいから、あなたを利用してしまいます」
「していいよ」

 髪を優しく撫でられて。
 遠い記憶が溢れるのを、止められない。
 涙が溢れてくるのを、止められない。

「ほらね、泣いた」
「大尉が放してくれないからです」
「うん、そうだな」

 しばらく静かに、泣いて。


 乱れた呼吸を少しずつ整えて。
「もう、大丈夫です」
「そう?」
 ようやく、フラガ大尉の腕が緩む。
 わずかに開いた場所に入り込んだ空気が冷たくて、少し寂しい。

 気付くと、大尉の軍服に私の涙が吸い込まれている。
「すみません、汚してしまいました」
「いいよ。…勲章だからさ」
 満足そうな顔に、意地悪がしたくなるのは何故だろう?
「そんな勲章は私が洗い流しますので、上着を脱いでください」
「えぇ?…まあ、いいか。じゃあ頼むよ」
 さっきまで抱かれていた体温をつかまえるように、大きな上着を受け取る。

 つい、と。
 フラガ大尉は、窓の外、遠ざかる星屑に優しい笑みを向けて。
「悲しいことも、愛しいことも、全部…忘れなくていいから」
 トンと床を蹴って、後ろ向きにデッキを出て行く。
「時々でいいから、俺のことも見て欲しいなーなんてさ」
 最後は軽くふざけた調子で、ヒラヒラと手を振って去ってゆく。


 もう一度、窓の外に毀れた夢を探して。
 今は幻想の中にある草原を想う。

「さようなら。でも、忘れませんから…いつまでも、いつまでも」



end



ユニウス7です。(汗)
現在PHASE27、未だにラミアスとフラガの過去は明かされていません。
なのにこんな話でさぁ〜ヘッポコな展開になったらどーすんの?>自分
ま、ユメミガチなので、現時点で許してホスィです。

お題のモトネタはグランディア・エクストリームの「幻想の草原」…まんまです。
ついでに私のヘッポコmidi。(作曲者=岩垂徳行氏)

2003.04.16


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