世界が美しい。
 輝く湖を見つめる男の瞳は、以前の私を見ていた時と同じ色をしていた。
 私のことも、そんな風に思っていたというの?


080.
優しい悪魔


 私は人間ではない。人間など滅びてしまえばいいと思っている。
 なのに、この男は私を助けた。
 大局を見れば、私など放っておけば良かったのに。
 そうすればこのバトルロワイヤルに破れた私はカリスに封印されて全てが終わったのに。

「約束してくれませんか。もう人間を襲わないって」

 馬鹿も休み休み言いなさい。そんなことできるはずがないでしょう?
 それなのに、そんな約束…。

「口先で約束して信じることができるの?」
「信じたい」

 男の瞳は、まっすぐだった。
 動揺する。
 何故?

「アンデッドの私を信じたい?何故?」

 自分への疑問を男への疑問へすりかえる。
 人と、アンデッドと、手を取って生きるような?
 カリスのような?
 有り得ないわ…私には。

 なのに、何故私は動揺などするのか。

「それは・・・」

 カリス!
 ドアミラー越しに私を見つけた!?
 私を狩る為に。

「白井さん!」

 振り返った男の首を絞める。
 苦しんで、気を失ったところで、腕の力が抜けた。
 手加減した訳じゃないわ。殺してやりたかったのよ。
 ただ、怪我をしていたから、力が出なかったのよ。

 車を降りて、カリスに向かう。
 どんな攻撃を仕掛けても、カリスには届かない。
 討たれて傷つけられて、力を失っていく身体で、それでも最後の抵抗をする。

「何故だ? 何故逃げなかった?」

 圧倒的な力で迫りながら、カリスが私の心を探る。

 心?

 そう。
 そういうこと、ね。

「あなたなら、解かると思うけれど?…カリス」

 さあ 早く 封印して
 あの男が  目覚めてしまったわ
 私の中に   心を   生まれさせた   あの男が


 さようなら
 私はアンデッドよ
 人間を傷つけるの
 最後に あなたの心に傷をつけられた

 しあわせ だったわ



end



つまりは、愛情なのだと。

みゆきさーん!
散りゆく花は切なかったです。
てか、虎太郎ちゃん、世界も美しいけれど、あなたも美しいですヨ。(苦笑)

2004.07.19


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