073.伊達と酔狂
fantasy100
073.伊達と酔狂
「どうしたの?恋煩いか何か?」
珍しく宮原が何度もため息をついている。ココロココニアラズ。
世界史の授業が自習になって、さっさと終わらせて寝ようかな、なんて考えてた亘の視界の先に、プリントの半分も白紙状態のままぼんやりしてる友人がいた。
騒がしくなる教室で、そこだけ白紙。
亘はしゃがんだまま移動して、ひょこっと宮原を覗き込むと、一瞬びくっと跳ねた。
そこで、さっきの質問をぶつけたわけだが、笑い飛ばすかと思いきや宮原のため息は一層重くなった。
「三谷ってさぁ、いつから芦川のこと好きだったわけ?」
たいそう真面目に聞かれて、亘も茶化せなくなる。
「とーとつだなぁ…。そりゃ会ったときからだけど」
「小5の時?でもあの頃は小村の方が仲良かっただろ」
「カッちゃんは今でも仲いいよ。連ザフ2で遊んでるし」
アーケードでもPS2でも散々やってるのに飽きないなァ、なんてツッコミが入るのも宮原ならでは。
美鶴だとなんだそれは、で終わってしまう。
「…でも恋愛に発展したのは芦川だけだよな」
「うん。まあね」
「女じゃないのに」
「それはどうでもいいこと。美鶴は性別を越えてる。美しくて強くて儚くて」
「ま、猫とか豹とかそんな感じだよな」
「いきなりケモノに例えないでよ」
「調教師だろ」
「僕が調教されてんだよ」
ぷっと吹き出した。「恋愛ってムズカシーね」なんてニッコリ笑う宮原は、やっぱり誰かに恋してるっぽい。
身近で、そんなヒト、といえばやっぱり。
「…なんだよ、美鶴に興味があるわけ?」
「今更…?どっちかっていうと三谷に興味があるよ」
「僕!?惚れたとか?」
「あのなぁ。三谷が芦川を好いてるってことに興味があるんだよ」
自然の摂理を曲げてまで。欲望が理性を越えちゃったりしてることに。
そりゃあ亘にも男同士が珍しいという自覚はあるけれど。
「なんでさ?美鶴を愛して何が悪いの?」
「悪くないよ。男である前に、アシカワミツルなんだろ」
「解かってるじゃん。宮原、何悩んじゃってるの?」
はああーっと長く息を吐く間、宮原の閉じられた瞼には何が映ってたんだろうか。
くしゃっと髪を掻いて、ぽつっと呟いた。
「小5の時だよなぁ。あの頃の芦川を今見たら、俺も好きになるのかなぁって思ってさ」
亘の脳裏にも、「あの頃」の美鶴の姿がくっきり浮かび上がる。
今よりもずっと、無理をして強かった、本当は脆かった、幼い美鶴。と僕。
「…美鶴は絶対渡さないから」
「…そういう意味じゃないから」
恋してるのは美鶴なのか、そうじゃないのか?
けれど、宮原は恋を諦めているという感じではない。
「じゃあどういう意味?」
亘の棘入り問いかけは、宮原には突き刺さらなかった。
「あの頃の芦川にそっくり…なんだよ。困った…」
はあ?首を傾げる亘の額を、シャーペンの柄の先でツンと押す。
既にチャイムが鳴る直前。
宮原は白紙の残りをさらさらと記入した。
おわり。
宮原くんの悩みは年齢差です。
あと、兄が怖い。助けて調教師!(笑)
2006.08.19
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