賑わう人ごみを横目に眺めながら歩いていると。
タッシルの子供達が数人、連れ立って追いかけてくる。

「金髪アタマのおじさーんっ!」
 誰がおじさんだっ!?
 ムカっとくるのと同時に落ち込んで、呼びかけた相手を無視。
「ねーねー。金髪のカッコイイ人!」
 カッコイイ人はヨシ。一応振り返ってやる。
「あのなぁ、お兄さんって呼べないか?お前ら」
「…だって、きっとオレたちの父ちゃんの方が若いよ」
 ため息ひとつ。
 戦争なんかやってると、婚期無くなるなぁ。
「んで、何?何か用か?」
「戦闘機見せて!」
「この間、散々触っただろうが」
「だって!…明日、行っちゃうんだろ?最後にもう一回だけっ!」

 ザフト軍『砂漠の虎』を倒して、大人たち、『明けの砂漠』のレジスタンスたちやアークエンジェルのクルーもみんな今夜は無礼講で騒ぎまくってる。
 同時に、別れの宴でもある。
 明日、俺たちはここを発つのだから。


069.
空の贈り物



 アークエンジェルの格納庫に子供達の歓声が響く。
「ナイショだぞー。見つかったら俺が怒られるんだからな」
 ま、みんな外だから見つかるなんてコトは無いだろうが。
「あっちのモビルスーツは触っちゃダメ?」
「あっちはダメ」
「ちえっ」
「ちえっじゃねーよ」
 子供達がスカイグラスパーに群がる。
 専用の脚立を置いてやると、大きな…10歳くらいの子はコクピットまで覗いている。
「ねえ、乗ってもいい?」
「順番にな。この間みたいにケンカするなよ」
 操縦桿やスイッチ類はロックしてあるから触られても問題は無い。
 壊されるコトを考えるよりも、子供達の嬉しそうな顔を見られるコトの方が、俺もずっと嬉しいし。
 一人で乗れない小さな子達は、自分がシートに座ってから、順番にひざの上に乗せてやる。

「ねえ、戦闘機乗るのって難しい?」
「うーん、努力次第ってとこかな。乗り物なんて何だって慣れれば手足が伸びたみたいに思うもんだし」
「かぁっこいいよなー!オレも乗りたいなー!」
「キィーーーンって飛んでってさぁ、テキをやっつけんだぜっ!」
「ボクも!テキのモビルスーツをやっつけんだ!」

 無邪気に、瞳を輝かせて話す子供達。
 戦争は、こんなに小さな子供達の心にまで深く入り込んでいる。

「お前らが飛行機に乗れる頃には、テキなんかいなくなってるさ」
 ええー?なんでー?ずるい!
 不満そうな声を上げる子供達。
 言い返そうとしたが言葉が出てこなくなってしまって。
 苦笑うしかない。
「そうね。その頃にはそうなってるわよ。きっと」
 いきなりかかった女性の声に、みんな驚いて振り返ると。
「やべぇ、見つかったぞー!艦長さんだ!怒られる前にみんな逃げろっ!」
 ふざけて追い立てると、またまた歓声を上げながらクモの子を散らすように格納庫から出てゆく子供達。
 甲高い声が聞こえなくなるまで見送って、軽くコクピットの確認をするためにシートに座る。

「…怒る?やっぱり」
「怒りませんよ。今日くらいは…ね」
 怒られないだろうと確信犯的にやってたのもあるんだし。

 マリュー・ラミアスの柔らかな笑みを見られるのも久しぶりだ。
 第8艦隊のハルバートン提督に会ったとき以来…だろう。

 キーボードを引っ張り出してロックを解除し、メイン電源を入れる。
 静かな駆動音、シートの周囲にある沢山のランプやスイッチが点灯する。
 端から端まで指先で触れてチェック、動作はすべて正常。
「…よーっし、異常なし。コレくらいで何かあったらソッチの方が問題だけどな」

 美人の艦長殿は子供達が消えていった格納庫の出口を眺めながら、クスリと笑っている。
「意外…。フラガ少佐って子供に懐かれるんですね」
「子供好きだぜー。子供欲しいしー」
 適当に、でも本心を言ってみる。
「その前に奥さんでしょ。少佐なら、その前にもう子供がいるんじゃないですか?」
「なんだぁ?信用無いんだなあ、俺。……目が恐いんだとさ」
「え?」
 今まで遊び程度に付き合った何人かの女性から、そんな風に言われた。
 目が、冷たい、恐い。
「こんなモノに乗ってると、そうなっちまうのかねぇ」
 やさしく、共に戦場を駆ける機体を撫でてやる。コイツは『私の責任にするな』なんて文句を言うかもしれない。

「本当に…あの子達が大きくなる頃には、こんな争いが無くなっていればいいのだけれど」
 ラミアスの微笑に薄く憂いが混じる。
 胸に手を当てて、祈るように。

「無くしてやるさ。青い空だけ、あいつらに渡してやりたいからな」

 親指で自分を指して、機体を叩く。
 俺が、コイツでやってやるから。

 ラミアスが、花開くように笑った。




End



PHASE 22 冒頭より。その2デス。(汗)
027.の続き…のような、ちゃんと繋がってないけど。

AAクルーの戦う理由を考えてました。
マリューは、その理由は過去にあるでしょ?
(現在#26。未だ不明だけど、きっと…ねぇ?)
キラは、現在を守るためでしょ。
じゃあ、ムウは?
未来のためならいいなーと思ってさ。

タイトル、誇大解釈してねー。(苦笑)

2003.04.12


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