「へえ。新しく入った研究員ってお前?」

 初めて会った時、桐生さんはこんなことを言ったっけ。


068.
狂熱の骸


 そのとき研究の最中だったライダーシステムのラウズに関する解析、計算式がマズかったのかモニターにエラー表示が現れてため息を吐いたときだった。

「…あ、すみません。まだ解析ができてなくて」
「博士持ってるっていうから、ひょろっとした坊やかと思ったら」
「え?」

 瞳に強い光を持つ人だった。

「広瀬さん!こいつ、ちょっと借りてもいいですか?」
「構わないが。前のヤツみたいに潰さないでくれよ、桐生」

 研究室長の広瀬さんが苦笑しながら怖いことを言う。

「あ、あなたが桐生さん!?」
「そ。ああもう、白衣脱いじまえよ!」

 無理矢理引っ張り上げられて、研究室から引きずり出されてしまう。
 この人が、古代遺跡から発掘された一万年前の伝説に挑戦する…ライダー。
 憧れの人を前にしながらも、余りに突然の出来事に何も言うことができなかった。
 連れてこられた場所はBOARDの建物内に作られた闘技室。

「ひとりで訓練なんてやってらんねぇんだよ」
「…俺、桐生さんの相手をするんですか!?」
「お前は何もしなくてもいい。寸止めしてやるから、立ってろ」

 桐生さんはニヤリと笑うが、その目は獰猛な獣を思わせる。
 次の瞬間、桐生さんの上体が軽く沈んで、風を伴った動きで足の甲が頬の横へ飛んでくる。そしてピタリと止まった。

「…ほう。見えてるのか」
「すごい…、速いですね」
「当たり前だろう?お前、武道の経験は?」
「特にありません」
「このまま暫く俺の相手しろよ。戦い方を教えてやるから」

 桐生さんは屈託無く笑う。
 自由に動いていいと言われ、迫る蹴りや打ち込みをかろうじてかわす。おそらく桐生さんは本気ではないだろう。見ているうちに、防御の姿勢が取れてくる。教え方が上手い。自分の体が桐生さんに合わせて素早く動けるようになることに感動さえ覚える。

 この人と一緒に人類基盤史の謎を紐解いて、危機的状況にある世界を、人々を守る…そんなことができれば。

「橘!!」

 突然上方から怒鳴られた。ラウズのシステム解析を待っている上司がカンカンになっている。

「しまった…!」
「先行ってこいよ。たーちーばーな!」
「…あ、え…」
「なんだ?」

 初めて名前を呼ばれて、絶句してしまった。
 尊敬できる先輩、また同じ時間を過ごせるかもしれない。それが凄く嬉しかった。

「今の仕事を片付けたら、また来ます!お相手させてください!よろしくお願いします」

 頭を下げて頼み込むと、降ってきたのは爆笑。
 何か可笑しかったかと戸惑いつつ顔を上げると、桐生さんは涙目で笑いながら俺の肩を小突いた。

「クソ真面目なヤツ!」



 今、俺の隣には睦月がいる。
 あの人のように、力を求めた睦月。
 あの人のように、その力を狂わせないように。

 あの人の骸に、必ず成し遂げると誓え。



End



桐生さんと橘さんネタはまだまだやりたーい♪ てか、本当に橘さんだけで、白ご飯3杯くらいおかわりできるよー(笑)

2004.06.15


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