初めてBOARDを訪れたあの日、私は半べそだった。
 悲しくて不安に押しつぶされそうで、ずっと泣いていた。
 お父さんはお母さんの病気が悪くなるにつれ、ここでの研究に没頭していったという。
 暗い病室でお母さんの手を握って、必ず助けてやるから、そう言ったお父さんは必死だったんだと思う。
 そして、お母さんは死んでしまった。
 お父さんは研究の最中、行方知れずになってしまった。


062.



「お父さん…、父はここでどんな研究をしていたんですか?」
「アンデッドの能力を引き出す方法、ラウズシステムという」

 言いながら烏丸所長は一冊のファイルを渡してくれた。
 ページを捲ると、記録写真の中に奇怪な怪物の姿が連続している。

「これって…最近噂になってる怪物ですか?」
「出現時期が君のお父さんが行方不明になった頃と重なる」
「そんなっ!じゃあ、父はこいつらに…」
「決まったわけではない。広瀬くんのことだ…きっと無事だ」
「どうして、そんなことが言えるんですか!?」

 激昂する私に、烏丸所長は自信をみなぎらせるような笑みを見せた。

「アンデッドを封印するシステムがある。君にはそのサポートを頼みたい」

 封印…そのシステムがあるから、お父さんは無事かもしれないということだろうか。
 考え込む私の肩を烏丸所長が軽く叩く。
 そして、付いて来なさいとばかりに、所長室を出る。
 研究所内は活気あふれる…というよりは、浮き足立つような雰囲気だった。

「ここっていつもこんな感じなんですか?」
「急いでいるんだ。我々も、彼らも」

 烏丸所長の、静かながらも滲む焦りの色を見逃せなかった。
 生体反応錠を解除して、二人は扉の奥へと進む。極端に光源を絞った研究室が続く。
 彼らも、というのは誰のことだろう。
 問おうとしたとき、目的の場所へ着いたらしい。
 扉の横に責任者の名前、お父さんの名前を見つける。
 ここが、お父さんの研究室…。

「桐生、橘、新人だ。仕事の内容を教えてやって欲しい」

 烏丸所長に呼ばれた背の高い二人の男の人が、こちらを向いて礼をした。

「広瀬栞です。よろしくお願いします」

 目の前の二人だけではなく、室内にいる研究員の全員が息を飲んだのが判った。

「広瀬室長のお嬢さんだ。先日お母さんが亡くなってもう身寄りがいない。少しでも広瀬くんの手がかりを掴めればと、ここへ呼んだ」

 烏丸所長が柔らかく紹介してくれる。

「桐生豪だ。ここの仕事はキツいぞ」

 ニヤリと笑いながら手を差し出してきた人、桐生さん。初めての挨拶にそれは無いでしょう?と思いつつも、握手で応えた。

「橘朔也、君と一緒に桐生さんのサポートをすることになる。よろしく」

 続いて握手を交わした橘さんも、瞳に強い光を持っている人だった。

「お父さん、きっと見つかるよ」
「俺たちが探す。そして、君も一緒に戦ってくれ」

 ここに来たときとは違う、別の涙があふれそうになった。
 嬉しい涙。
 忘れかけていた、優しい感情。

「ありがとうございます。私、頑張ります!」

 烏丸所長が優しく見守ってくれている。
 新しい仲間と、ここで。
 お父さん…待っているから。



end



結局、橘さんが出てきます。(笑)そういう脳だからしかたない!!
本編見てたら、お父さん死んだとは思えない栞ちゃんだったので、こーゆー展開に。

2004.06.20


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