024.
あなたに会いたい




 おだやかなゆめ


   みつけたよ
   パズルのピース
   飲み込んだなんて
   冗談ばっかり


あのときのゆめ
ゆめの中の小夜子はただ静かに笑っている


   あなたにあえて
   よかった


なにもかもが美しくて
傷を負って血に汚れていたはずなのに
それすらも見えないほどに真っ白な世界で小夜子は


   ごめんね


抱きしめようとすると
それは幻
腕の中で消えてしまう


ゆめだと気づいていたから取り乱すことも無かった




誰もいない部屋、見慣れない部屋。
浮上する意識の中で、白壁に貝のレリーフを見つける。
白井農場の一室。
レンゲルのベルトの行方を話しに来ただけだったのに。
剣崎にはここにいろと熱く説得され、広瀬にほんの少しでも休めと言われ。
心遣いが嬉して。
いつものにぎやかな日常の中、いつの間にか眠ってしまったのだ。
外は暗く、もう深夜に近い。
考えられないことだった。
以前の自分からは。


窓を開けると冷えた風が入り込む。
都心から少し離れただけで、降るような星空。


「橘さん、起きちゃったんですかぁ?」

間の抜けたような声は、白井のもの。手には相変わらず牛乳ビン。

「悪かったな。この部屋、占領してしまって。剣崎と広瀬は?」
「もうすっかり寝ちゃってるよ。剣崎くんなんか、神経太いからどこでもすぐに寝ちゃう」
「そうか」

言っている間に白井は2本目の牛乳。
そんなに飲んで平気なのか?と思うが、きっと俺が思うことぐらいはあの二人が先に言っているだろう。

「橘さん、本当にギャレン辞めちゃうの?」

残念そう、と言うよりは悔しそうな白井。

「そうか。レンゲルのベルト・・・か」

数日前、あのベルトの闇の力に白井が操られた。
だた、強くなりたいと願っただけで。

「白井、お前はなぜ力が欲しかったんだ?」
「それは…姉さんと天音ちゃんを自分の力で守りたいから」
「なら、それはライダーの力でなくてもいいはずだ」
「けど」
「守る力は、守りたいものを強く想ってこそ本当の力になる。レンゲルの力はそういうものではない」

ただ、強くなりたいと願うだけで与えられる力。
そんなものに支配されてはいけない。

「橘さんには力があるから、そんなことを言うんだ」
「俺に守るものはもう無いけどな」

はっと白井が息を呑んだ。
小夜子に思い当たったのだろう。
傷つけることばを心底後悔するように視線を下に傾ける。
こんなに素直に感情を表せる白井が、うらやましくさえある。

「ごめんなさい、そういうつもりじゃ・・・」
「解ってる。八つ当たりだ」

窓枠に凭れて、改めて夜空を見遣る。
冷たい大気に溶けてしまえればいいのに。

「明日・・・朝には出るから。今夜だけ、ここに居させて欲しい」
「そんな、今夜だけじゃなくて、ずっとでもいいよ!剣崎くんも広瀬さんもその方が絶対嬉しいし、安心だし」
「ありがとう」

自然に口を突いて出た感謝に、白井も驚いているが、自分でも驚く。
やたら照れた様子で白井が3本目の牛乳を飲み干した。

「うん、えっと、じゃあ、また明日!」

ニコニコ笑って白井は階上へ駆け上がる。




確かに
俺は変わった


今は
目を閉じれば
おだやかなゆめのなかで小夜子に会えるから


   あいたかった
   橘くん


「俺も、会いたい」


つぶやいたことばは何処にも届くことはなく
白くかすんで
きえた





end



ああっ!
やっぱり痛い!! 痛すぎるよ・・・ねえ、ママン!(涙)

16〜17話あたりのツモリで書いたのですが、こんなシーンが書けるような余裕があの頃にあったっけ?
(うろ覚え)
橘さんに接触するのは迷わず虎太郎ちゃんでした。
剣崎くんに「考えること」は似合わないんで。(本当に頭脳明晰?・笑)

2004.06.12


--- ブラウザ・BACKでお戻りください。 ---