「広瀬さん、アンデッドを解放したのはあなたですね?」
聞いたのは確認の為だった。
あの時、理事長が死んだと言っていた広瀬は生きていた。
021.
奇跡
「何故そう思う?」
「ここにあるプライムヴェスタ…ライダーシステムで封印されたものではありません。なら、最初から封印が解かれていないと考えます」
「スタッグとビートルはライダーシステムを研究していた烏丸が持っていた」
「…だから、解放を免れた…」
言葉にしながら、その罪の重さに愕然とする。
結果として、奪われてしまった沢山の命の重さに。
「私は、どうしても妻を助けたかったのだよ」
罪と引き換えにされた願いも、重い。
彼のすべてを賭けた願い。
広瀬の指がデスク上のキーボードを弾くと、トライアルFの入った箱がモニターに映る。
まるで、子宮のような、箱。
「過ぎた時間は戻らない。死んだ人間も還らない。けれど、奇跡は起こり得る」
「でもそれは!…願い続けていれば叶う奇跡ではありません」
どんなに願っても、小夜子は還らない。
広瀬の妻も還らない。
ならば、せめて今生きている人を幸せに、したい。
「私は奇跡を引き寄せる。必ず」
「広瀬さん」
「この世を苦しみ、悲しみから解放するのが私の仕事だ。大丈夫、栞を…娘を悲しませるようなことはしないよ」
父親の顔を垣間見せる広瀬はとても優しく笑む。
…これだから、俺はここを離れる気がしないのだ。
「そう、ですね。今は、剣崎を…。もう一度剣崎を説得に行かせてください」
end
2004.11.17