リビングの低いテーブルの上に飾るように置かれた物体。
取り囲むように数名の男女。
014.
高級マツタケ
「絶対酒蒸し!」
「それじゃあ僕が頂けません。採ってきたのは僕なんですよー?」
「オレ、炭火焼で食いたい!」
「それほどの量は無いですよぅ〜」
「普通に考えて炊き込みご飯でしょ?」
「ええーそんなのイヤよ!贅沢にイキたいじゃない!」
ずっと修行だなんだと山の中に入ることの多かったので、すっかり仲良くなった地主さんの山菜採りを手伝った。
そのお礼に頂いたのだ。すごーく立派な松茸を。
傘は開いてないけれどもかなり太めで肉厚な高級品。
数本あったのだが、自宅と望美にも〜と渡してしまうと、白井邸におすそ分けできるのは、たった1本になってしまった。
その、調理法を巡って、大人げない火花が散っている。
「ハタチ過ぎたらやってみたいって夢だったのよ〜。ねえ、お願いっ!酒蒸しにしよう」
自分だってハタチすぎたらそんな風にお酒を飲んでみたいと思ってるから、その気持ちは解かります、広瀬さん。
けど。ライダーズは不服そう。
ああ、そうか。もし飲んでる間にアンデッドが出現したら、バイクに乗れませんもんね。
「子供の頃さぁ…まだ両親が生きてた頃に、一度だけ炭火焼で食ったことがあるんだ〜。それがめっちゃくちゃ美味くてさぁ!あ、ダメだヤバイ!思い出したら涙が…なあ、炭火焼…」
一瞬ほだされそうになりましたよ、剣崎さん。
美しい思い出は本当ぽいんです。けど、涙はウソ泣きでしょ?
「炊き込みご飯ならみんなが食べれるじゃない。細かく刻めば沢山作れるし、おにぎりにして冷凍しちゃえば結構長く持つし」
現実的な主婦感覚ですね、虎太郎さん。
けど。そうやって冷凍された栗ご飯が連続でお昼ご飯に登場してること、知ってますよ。
いや、美味しいんですけどね。虎太郎さんのご飯…。
ところで。
「橘さんはどうやってこの松茸食べたいんですか?」
さっきからずっとテーブルの上の物体から視線が外れていない。
その視線で松茸がこんがりローストされてるんじゃないだろうか。
おもむろに、橘さんがその大きな松茸をむんずと掴んだ。
そして鼻先にそれを当てて、すーぅぅぅ〜っと香りを吸い込んだ。
「ナマで食ってみたいなー・・・なんて」
軽く口を開いて、パクつきそうになる寸前。
「「「「ダメです!橘さん!!」」」」
一斉に全員がツッコミ。
「あ、・・・冗談だ」
冗談じゃなかったでしょ?橘さん!すごく惜しそうな顔して!!
つーか、その、あの、
エロすぎます!!!
皆が、ツッコミの続きの言葉をごっくんと飲み込んだ。
「じゃあ、お吸い物がいいな。香りも楽しめるし、食感もあるし、皆がちゃんと食べられるカタチになるし」
なーんにも気付いていない橘さんが明るく提案してくれた。
答えるように、全員がまた一斉に頷いた。
皆がイチバンに望む食べ方はできなかったけど。
・・・
イイモノ見た〜〜と橘さん以外の皆が心の奥底のアルバムにあの瞬間を焼き付けていた。
おしまい。
2004.10.10